※二心二体。
 ちょっと下品表現あり(本当にちょっと)
 城バクで、微妙な関係。
 煙草は20になってから。















































 城之内克也と、バクラは付き合っているのかいないのか、とても微妙なラインにあった。
 もしも誰かが付き合っているのかと言われればお互い首を捻って否定するだろう。
 しかし、一般的なお付き合い関係にある二人がするようなことは、最後の一線はまだとはいえ、してしまっているのだ。
 どうしてしたのか、どうしてそうなったかは、本人たちにもわからない。
 なら、どういう関係なのだと聞かれたとき、答える言葉がないことを、二人はまだ保留にしている。
 そうして、今日も宿主様がいらっしゃらないうちに、バクラは城之内を家に招き、食事を作っていた。





「おい、凡骨、人が飯作ってやってんのに、何食ってやがる」

 飴を一つ口に放り込んだのを目ざとく見つけたバクラは、城之内を睨みつけた。
 振り返ると、バクラが身に着けたエプロンが揺れる。
 城之内は少年の不機嫌そうな顔に、気まずそうに目をそらした。
 台所からはじゅうっと、水に溶かされた小麦粉とキャベツと豚肉が、つまりお好み焼きが焼ける音と匂いが辺りに漂う。
 この匂いの中で甘い飴を口にいれるのは微妙だった。
 もうすぐできるというのに別の物を食べられるバクラにとっても、食べる城之内にとってもだ。

「誰のせいだよ……つうか、凡骨って呼ぶなよ……海馬思い出すだろ」
「人がせっかく作ってやってるのに別のもん食う奴なんか凡骨で十分だろ」

 だが、城之内は口にいれるしかなかった。口にいれないと、落ち着かないのだ。
 本当は、飴などではなく、別のものが欲しい。
 けれど、それは今こちらを睨むバクラによって禁止されている。

「こっちは吸いたいの我慢してるんだぜ」

 城之内は、唇に手を持っていって、何かを吸うように唇を尖らせるジェスチャーを見せた。

「てめえのせいだろ」
「ぐっ」

 まったく悪びれない、当然という断定口調。
 そのあまりにも横柄な態度に、むっと城之内も反論のために口を開く。

「なんだよ、お前が……」
「この国の法律では20歳以下は禁止されてて、苦いし煙いし匂いがつくし、本当は中毒性も毒素も麻薬以上にやべえもんなんか吸ってるやつが悪い」

 何かを言う前に正論でまくしたてられ、まったく反論できない。
 開いた口を大人しく閉じる。
 こうして、城之内が弱ってしまう原因は、煙草だった。
 城之内はいまだ未成年であるが、若さゆえの過ちか、一般的に不良とよばれるものであった頃から煙草を吸う。
 しかし、今は更正し、その本数も減り、友人たちの前では絶対吸わなかった。だが、つい、家や気を抜いてしまうときはうっかり吸ってしまう訳で。
 つい、数日前に気を抜いてバクラの前で吸おうとしてしまった。その瞬間の恐ろしさは、城之内の心に今も焼きついている。
 烈火のごとく激怒したバクラは、煙草の有害さと家の壁につくこと、匂いを宿主、つまるところ家主がどれだけ嫌いかをまくしたてたのだ。
 特に、自分が必死で掃除している家の壁に匂いと色がつくという点を酷く強調して。

「吸うような奴は二度と家にいれねえ、飯も作らねえ!!」

 おいだす!!
 っと宣言したのだ。
 この家は元々バクラのものではないが、かなりバクラの料理が気に入っている彼にとって、それは少し困る提案だった。
 少々金欠気味である城之内にとって、一食分の食費が浮くというのもあったが……。
 とにかく、無理矢理吸わないことを約束させられたのだが、そう言われると、それほど吸いたくなかったというのに吸いたくなってくる。
 吸わないようにと意識すると、たまらない。
 口が妙に寂しくて、飴やガムを口にしてしまっても仕方がなかった。

「もうすぐ焼けるから、とっとと食えよ」
「へいへい」

 ガリガリと口の中で飴を噛み砕く。
 その間に、バクラはお好み焼きをひっくり返した。
 狐色の焼き色に、満足そうに頷く。
 その後姿をじっと見つめながら彼はふと、とある思いが過ぎる。
 普通ならば、そこで胸に秘めておくところだったが、城之内はうっかり口にしてしまった。



「嫁さんもらったみてー」



 がづっと、バクラの手からフライ返しが落ちる。
 その音で、城之内は自分の失言に気づいた。
 確かにバクラは華奢で、少々目つきは悪いが女顔を持っていたが、女でだけはない。そんなバクラにどう考えても嫁っと使うべきではない。
 ぷるぷると、肩が震える。
 追い出されるか、暴力を振るわれるか、とりあえず、怒鳴られることは必死だろう。とにかく、バクラは口が悪くて短気で、しかも相手の欠点やら気にしていることを抉ることに長けていた。
 口汚い言葉で罵られると思い、城之内は咄嗟に身構えて目を閉じる。
 しかし、いつまで経っても言葉がこない。
 恐る恐る目を開いた城之内が見たものは、顔を真っ赤にして口を引きつらせるバクラだった。
 顔は、怒っていた。

「う、あ、こ、ば……!」

 けれど、あまりにも顔が赤すぎてその怒り顔が、妙にかわいく見えてしまう。
 うまく口に出せない言葉が、断片になって飛び出る。
 それを、ぐっと、飲み込み、屈むと、フライ返しを握り締めた。
 すうっと、息を吸う。

「だっ誰が嫁だ!! ぼっぼんこつー!!」

 壁に刺さるのではないだろうか。
 そんな予感すら覚える速度のフライ返しが城之内の横を通り過ぎる。 
 予感に反してそれは壁にぶつかるだけで刺さらなかったが、かなり痛そうな音をたてた。

「ばっばーか!! ばーか!!」

 普段の様子とは間逆の取り乱しっぷりに、城之内も唖然とするしかない。
 思わず、家主の少年に嫁についての知識を間違って教えられているのではないかと疑うほどだ。
 ひとしきり喚いたバクラは、ぐるっと、フライパンに向き直る。
 フライ返しが手にないことを思い出し、しかたなくフライパンをゆすると、軽く振り上げてひっくり返した。
 狐色の表に反し、裏側は多少黒く、焦げ臭い。

「てめえのせいで焦げただろ!! バーカ!! これ、てめえが食えよ!!」

 怒鳴るバクラに、城之内はただ頷くことしかできなかった。









 自分で焼いたちょうどよい色のお好み焼きを口に詰め込んで落ち着いたバクラは、黙ってお茶を飲んでいた。
 その逆に、バクラの様子をうかがいながらちょっと苦いお好み焼きを食べているため、遅い。
 最後の一口を運んだ時には、バクラは自分の皿を洗っていた。

「ごちそーさまー……?」

 恐る恐る呟く城之内に、バクラは、一度振り返り、すぐ視線を戻す。
 そして、あらかさまにはあっと、溜息。

「もう怒ってねえから……顔色うかがうんじゃねえ……」
「お、おう……」

 一安心し、なんとなく正座していた足を崩す。
 そうすると、妙に手持ち無沙汰になり、無意識にポケットに手を伸ばした。
 だが、そこに求めるものはない。
 代わりに、硬い飴だけがあった。
 食事の後だがいいかっと、飴を取り出し、口に入れる。
 適当に舌で転がしていると、手を洗い終えたバクラがいきなり隣に座った。
 普段ならば適当に近くに座るだけだが、すぐ隣は珍しい。
 訳がわからず黙っていると、ちらっと、目があった。

「何味食ってんだ」
「へ?」
「何味、食ってんだよ」
「え、ああ……みかん……」
「ふーん……」

 聞いた割りにはあまりにも興味なさそうに相槌を打つ。
 更に混乱する城之内に、バクラはいきなり寄りかかった。

「バクラ……?」

 普段のバクラとはかけ離れた大人しさだった。
 ついっと、青い瞳が城之内を見上げる。
 そうしていると、整った顔立ちのバクラはかなり美人で、どきっとしてしまう。

「飴、何味だ?」

 繰り返される言葉。

「え、だからみか……」

 最後まで言い終わる前に、バクラは城之内の服の襟を掴むと引き寄せる。
 それほど座高に差のない二人の唇は簡単に重なり、不意打ちをくらった城之内は動けなかった。
 薄いバクラの唇から舌が飴を探るように歯列を割って伸びる。
 かっと、頬が熱くなった。
 いきなりのことで中々状況が把握できない城之内の口内で転がし、少し小さくなった飴を自分の口に奪い取る。
 それでも、まだ止まらず唾液を絡め、こくっと小さく吸い、城之内をいきなり突き飛ばした。

「みかんだったな」

 べっと、バクラが赤い舌にオレンジの飴を乗せて見せ付ける。
 それはどこか、不思議な色気を見せ、床に転がっても、しばらく城之内は見惚れてしまった。
 反応が全然ない城之内に、バクラは得意そうな顔をつまらなそうに歪める。

「おーい、おーい、凡骨、生きてるかー?」

 そう言う声はいつも通りすぎて、拍子抜けしてしまう。
 しばらくつっついたり、声をかけていたが、顔がもう一度降りてきた。

「返す」

 再び唇が重なり、城之内の口の中に飴が戻ってくる。

「ん……」

 だが、今度は城之内も動いた。
 バクラの頭を抑えると、伸びる舌を絡めとる。
 安っぽいみかんの味が広がった。
 最初は少し驚いていたバクラだったが、おもしろいとばかりに笑うと舌を動かす。
 飴を舐めあうように、くちゅくちゅと水音を響かせた。
 熱く、更に熱くなっていく体温に、飴はどんどん溶け、お互いの口の中の味を同じにしていく。
 下になっている城之内は濃さに咽そうになったが、それでも飴が小さくなるまでバクラの後頭部から手を離すことはなかった。
 こくりっと、唾液と一緒に本当に小さくなった雨を飲み込む。
 やっと後頭部を解放されたバクラは、にっと笑った。

「ごちそうさま」

 抑えられていたせいか、首が痛いのだろう、ぐるっと回す。
 その表情を見て、城之内は短い付き合いだが、バクラの機嫌がいいことに気がついた。
 いつもならば、ここで蹴りの一つも入るところだったからだ。

「さーて、そろそろ宿主様も帰ってくるし、帰れよ」

 立ち上がり、城之内の分の皿も片付けようとするバクラに、声をかける。

「いや……」
「ん?」
「ちょっとバクラさん、聞いてほしいんですが」
「どうしたんだよ?」

 やけに改まる城之内に、バクラは首をかしげた。
 城之内は、ごろんっと、横に転がる。

「俺は、その、ですねえ」
「おう」
「健全なだんしこーこーせーであって」
「はあ?」
「あれくらいでぃーぷなきすされるとちょっとたてないじじょうが……って、鼻で笑ったな今!!」

 必死な城之内に対して、バクラは吹き出した。

「ひゃははは!! わけえな、凡骨!!」
「うっうるせー!! 凡骨って言うなって!!」
「ひゃははははははは!!」

 バクラは、笑った。
 ひたすら笑った。
 あまりにも笑いすぎて座りこむほど。

「残念だけど、俺様は抜いてやらねーぞ?」
「よけいなお世話だ!!」










 後日談。

「なあ、獏良ぁ……」
「ん、城之内くん、どうしたの?」
「バクラに、嫁とかってさ、どういう意味って教えた?」
「嫁……?」
「嫁さんとか……」
「ああ、簡単に教えたよ」
「どういう風に?」



「最愛の人って」



 なぜだか、その時の少年の笑顔が、妙に眩しく見えた。



 私にできる甘々の限界は、ここまででした……!!
 城バクで甘々、咲様にお捧げさせていただきまーす!!
 文才がないゆえの所業です、お許しください……。
 返品OKで、消すなり怒るならお好きに!! もう本当にすみません!!

 そして、もう少し間接キスとかでらぶらぶにしようとしたら、お捧げする咲様にエロスな人と見られていたので、ちょっとレベルアップ。
 もっとえろえろした方がよかったでしょうか。いや、お捧げするものがあまりにもアレなのはだめですね。
 城之内の口調が難しかったです。ヘタするとバクラと被るし、バクラの態度とか、どんな性格のさじ加減ですればいいのかとかもう、マリクのとき同様手探りでした……。
 とりあえず、城之内は普通の男子高校生なわけであって、そういうところにレベルをあわせました。イメージと違ったら本当にすみません。
 後、勝手に城之内に煙草を吸わせてすみません、煙草は二十歳になってからです。すみません。
 頭抑えるところで男を見せましたが、全体的にヘタレですみません。
 城之内は煙草吸わない!! ット言う方すみません、土下座します!!
 もう、謝ることしかない……!!

 この作品は、城之内メインなので、普段は城ノ内と書きますが、正式表記。



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