※王様と遊戯と、バクラが幼馴染。
 王様と遊戯がバクラを共有してます。
 なんだか変な話(管理人のいつものこと)










































 昔からそう決めていた。
 同じものがほしくなったらはんぶんこ。
 美味しいクッキーは2つに割って。
 好きなおもちゃは交代で。
 そうやって、二人のものは流れる時間の数だけ増えていく。
 共有物をすでに数えることなんてできはしない。
 言わなくても自然にそうなってしまう、決められたこと。
 今まで、確認したこともなかった。

 けれど、今回ばかりはそうもいかない。

 彼の相棒はそう言った。
 始めは、あまりにも急で意味がわからず聞き返す。
 だが、相棒は繰り返しはしなかった。
 似ているが違う、大きな瞳でしっかりと彼を見て、問う。

「君は、好きなの?」

 相棒の膝の上、白髪の少年が寝ていた。
 まるで子猫のように体を丸め、穏やかな寝息をたてている。
 その髪を相棒は優しく撫でた。

「君は、誰が好きなの?」

 彼は、胸にこみ上げる衝動の名前がわからず戸惑った。
 相棒と、少年の顔を交互に見る。
 その光景は、決して珍しいものではないというのに。そう、いつだって、彼はいつだって名前を知らない感情を覚えるのだ。
 いつものように、相棒は穏やかに笑っていた。そして、答えを待っている。
 ひたりと捉えられた視線を、いつしかそらすことは許されていなかった。
 ぐるぐると思考が回る。何も言葉を出せず開いたままの口の中が乾いていく。

「あい、ぼう……」

 なんとか呟いても、その後が続かない。
 柔らかく、唇が開かれた。

「どっちがすきなの?」

 どっち?
 それは、誰と誰かなど、問わなくてもわかる言葉。
 瞬きが、なぜだか酷く久々に思えた。一秒が、一時間にも感じる圧力。
 いや、相棒は圧力なんかかけてはいなかった。
 真剣ではあるが、あくまでも自然に、ゆるりと無邪気に聞いている。
 それを、重くとるのはあくまで彼だ。
 嫌に、時計の針の音が大きく聞こえた。
 相棒は、決して急かさなかった。
 それが逆に彼を追い詰める。
 ぽたりと、アゴから汗が落ちる。
 そういえば、今日が夏だったと思い出した。
 セミが鳴いている。遠い、あまりにも遠い。まるで、ぽっかりこの部屋だけ切り取られたと錯覚してしまうほどに。

 どれだけの、時間が経っただろう。
 
 もしかしたら、ひどく長い間だったかもしれない。
 もしかしたら、とても短い間だったかもしれない。
 彼には判断できない時間の中で、やっと、呟かれた。

「    」

 恐らく、その時点での、真実。嘘偽りのない本音。
 彼の言葉に、相棒は頷いた。
 そして、ますます嬉しそうに笑う。

「じゃあ、はんぶんこだね」

 幼い頃の、そんな他愛もない言葉。
 でも、それは、とても重要なことだった。
 これから先の全てが、その時決まったと言っても、過言ではないほどに。









 もぞっと、布団の中で寝返りを打った。
 すると、布団と体の間に隙間ができ、冷たい空気が入り込む。

「……」

 その朝の肌寒さから逃げる為に唇まで布団をかぶった。
 ふと、近くに感じる熱。
 開かない瞼をそのままに、手でごそごそと熱を探す。
 そして、その指先が左右の熱に触れると、ぎゅっと掴んで引き寄せた。
 すると、左右の熱が同時にころんっと、寝返りを打ち、ぴったりとくっつく。
 布団の中、ぬくぬくと3つの体温が触れあい、心地よい。
 ただ、髪が当ってくすぐったいのか、多少顔の向きを変えて調整する。
 そのもぞもぞとした動きに、連動するように左右が小さく声を漏らした。
 だが、その瞳は開くことなく、意識と視界は眠りに閉ざされている。
 時計の針の音が静かに響いた。
 カーテンの向こうでは朝陽が差し込み、世界は目覚めに向かって進んでいく。
 そうして、ようやく一人の瞼が開いた。
 ぱちっと、一瞬き。
 視界の中に顔を半分出した隣人を認め、手でその感触と体温を確かめる。
 しっかりといるとわかると、笑って起き上がった。
 目をこすれば、薄暗い部屋の中で隣人と、そのもう隣の存在も見つけた。
 布団の中に、冷たい風が入り込む。
 すると、ぴくっと、隣人が震え、布団をかぶろうと引き寄せた。
 その仕草が妙に愛らしくて、思わずくすりと笑ってしまう。
 ちょっとかけてあげると、もぞもぞと猫のように丸まった。
 朝から気持ちが和み、隣人の頭に手を伸ばす。柔らかい髪の毛の感触は指に気持ちいい。
 2,3回撫でると、無意識に手に頭がすりよってきた。
 もう少し見ていたかったっが、時計を見てそうも行かないと理解する。
 体を屈めて、いつもならば髪に隠れている耳に、そっと囁く。

「終くん、朝だよ」

 くすぐったそうに口角がつりあがる。
 一度だけ寝返りを打つと、起き上がった。
 まだうまく瞼が開かないのか、ごしごしこすり、目をつぶったまま、ふらっと、そのまた隣の存在の方を向く。
 そして、しばらく目を閉じたままぼーっとしたかと思うと、寝ている隣人の頬に唇を落とした。
 短い、ほんの一瞬の口付け。



「ゆーぎ、おはよう」



 寝起きの擦れた声。
 抑え切れず、笑ってしまう。
  
「終くん、僕はこっち」

 あれ?
 っと、うっすら開いた瞳が起きた隣人を写した。
 みるみる目が見開き、表情がしまったという痛恨の顔に変わる。
(間違えた……!)
 寝ぼけたまま、耳元で声を聞いたせいで、寝たまま囁かれたと勘違いしたのだろう、苦虫を噛み潰したような表情で、袖で思いっきり唇を拭き始めた。
 かなり強く勢いよくこすったので、唇が赤い。

「終くん、そんなにこすったら、唇の皮むけちゃうよ」

 慌てて止めると、がしりと肩をつかまれた。
 そのいきなりの行動が驚いている内に顔が頭突きほどの速度で突き出される。
 唇が重なる。
 慌てて引いたおかげで、歯とぶつかることはなかったが、少し唇が痛い。
 けれど、相手は特に痛がる様子もなく、満足げに頷いた。

「口直し」
「それ、ひどいよ」

 苦笑すると相手はぐるっと、まだ寝ている隣人に向き直った。
 そして、次の瞬間、寝ている隣人を布団からも、ベッドからも蹴り落とす。

「おきやがれ!!」
「うわ!?」

 鈍い、鈍い音がした。
 かなり打ち所の悪い音だ。
 思わず顔が青ざめ、引きつってしまう。  
 咄嗟に心配して助け起そうとするが、間に挟まる相手が邪魔をした。
 短い、沈黙。
 べたっと、ベッドの下から手が伸びた。

「なにを」

 怒りに満ちた声。
 ぐっと、手に力をこめ、体を持ち上げる。

「なにをするんだバクラ……返答いかんでは俺も怒るぜ……?」
「うるせえ!! いつも奥で寝るくせにそっちで寝てやがるから俺様が間違えただろ!!」

 かなり、八つ当たり気味の言葉だった。
 しかも、今起きた彼にとってはまったく意味のわからない言葉。
 一瞬呆気にとられて首を傾げるが、すぐに目を吊り上げる。 

「訳がわからないぜ!」 
「ベッド上がってくんな!!」
「もう、アテム、終くん、朝から喧嘩しないでよー!」

 手をついて起き上がろうとする彼の手を蹴り飛ばそうとし、抑えられる。
 まだ縄張り争いの猫のように睨み合う。
 なんとか二人をなだめながら、場を和ませるために笑った。
 一応は言う事を聞いてくれる二人はふんっと顔を背けあっている。
 どうにか、朝食までに仲直りさせられないだろうか。そう考えていくうちに、そうだっと、思いつく。

「アテム、終くん」

 同時に、視線が向く。
 その視線を受けて、にっこりと微笑んだ。

「まだ、朝の挨拶、済んでないよね?」

 げっと、二人の顔が同時に歪む。
 お互いの顔を見て、目が合った瞬間そらした。
 それを見て、うんうんっと、頷く。

「終くんは僕にも、アテムにもしたけど、僕とアテムは終くんにしてないから」
「……したのか?」
「うるせえ!! 間違えたんだよ!!」

 怒りなのか恥ずかしいのか顔を真っ赤にして暴れる。
 その腕をなんとか抑えて、しっかりと言った。

「だから、しないとね」

 楽しそうな、しかし逆らえない響きだった。
 二人はもう一度、顔を見合す。
 先に決心をつけたのは、隣人だった。

「じゃ、じゃあ、遊戯から……」

 せめてっというような縋る顔で隣人が見る。
 しかし、首を振った。

「どうせなら、同時がいいよね。ちょうど今日は終くん挟んでるし」

 ね、だめ?
 お願いといいたげな大きな瞳。
 これで見られてしまっては、二人は首を横に振ることなどできなかった。
 しばしの沈黙を置いて、のっそりと彼が動く。
 そして、ベッドの上に上ると、隣人を挟むように顔を近づけた。
 同じように、反対側でも顔を近づける。

「1、2、の3だよ?」

 耳元で呟かれ、びくっと体が震えた。
 向こう側で頷くのを見て、真ん中が目を閉じる。
 自分でやるのは平気だが、待つという行為が苦手なのだろう、白い肌がうっすら赤らみ、震えた。
 だが、震えているのは真ん中だけではない。
 向こう側も、微かに震えていた。その上、顔が真剣なのが笑いをこみ上げさせる。

「1、2、の」



 彼らの間の朝の挨拶。
 それは、



「3」

 ちゅっと、小さい音をたてて、頬に唇が当る。
 その、口付けこそが朝の挨拶であり、約束だ。
 柔らかさが同時に双方からきて、離れていくのを感じた時、ばっと目を開いて真ん中は素早くその場に顔を伏せた。
 恥ずかしがってるのを見られたくないのだろう光景は、妙に微笑ましい。
 ちらりと、彼に視線を移せば、必死に平静を保とうとして保てていない顔があった。
 そんな二人を見て、嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ、朝の挨拶が済んだから、朝ごはんにしようか?」

 もう少し待って欲しいと訴える二人に

「じゃあ、先にご飯の用意しとくよ」

 っと立ち上がる。
 後ろ手で扉を閉めた瞬間、物凄い叫び声と鈍い音が聞こえた。


  




 
 現在も続く決め事。
 あの日、あの時、彼が答えた一言はしっかりと今に至っている。
 同じものがほしくなったらはんぶんこ。
 同じひとを好きになったらはんぶんこ。
 美味しいクッキーは2つに割って。
 大事なことは二人で平等に分けて。
 好きなおもちゃは交代で。
 大切なものは二人で共有。
 そうして、不思議な関係は流れる時間の中でも変わらない。
 不自然でありながら、なんともキレイな形に収まってしまっていた。










『ねえ終くん』
『君は、好きなの?』
『君は、誰が好きなの?』
『どっちがすきなの?』

『    』









 幼い頃の、そんな他愛もない言葉。
 でも、それは、とても重要なことだった。
 思い出して、笑う。
 なんといっても、その時の答えといえば。

「あっとりあえずお皿並べといたよ」

 彼と少年が、一緒に扉を開けて、相棒を見た。
 相棒は、不思議そうに手を止め、二人の神妙な顔に、首を傾げる。
 また、自分の見ていないうちに喧嘩したのだろうか。
 当たり前のこと過ぎて、少し呆れてしまう。
 それでも、二人は真剣だった。

「なあ、遊戯」
「なあ、相棒」

 二人は、同時にお互いを指しあって、やはり同時に問いかけた。

「「俺(様)とこいつ、どっちが好き?」」

 笑わずにはいられなかった。
 過去にした質問を今もまたするのだから。
 笑えて、そしていつも少しだけ照れくさい。
 少しだけ考えるフリをして、すぐに口を開いた。



「りょうほう」



 そうして出された答えは、昔も今も三人一緒だったから仕方ない。



 ほのぼのを目指してなにかをひたすら間違った気がしました。
 えっと……王様と遊戯のはんぶんこでサンドイッチ!
 リクエストに答えられているかさっぱり不明に思えて不安でたまりませんが、お捧げさせていただきます!!
 こっこんなものでよければお受け取り願えるとうれしいです!
 勿論返品OKです!!
 もっもう、煮るなり焼くなり好きにしてください!! 
 
 ヘッダー部分にこの話の要約をつめたつもりです。
 もう少し、布団でもぞもぞいちゃいちゃすればよかった。





蛇足オマケ。
 (宿主様が入れなかった)

「いいなあ、遊戯くん。僕もいれてよ」
「いいけど、獏良くん、アテムのこと好き?」
「あんまり……」
「じゃあ、しかたないね」
「しかたないね」
「しかたないねー」



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