盗賊が一歩、王の部屋に踏み込むと、酷く甘い香りが立ち込めていた。
敏感な盗賊の鼻には、甘すぎて少々の吐き気すら覚える。
その向こうに、王はいつものように座っていた。
「なんだ、この匂いは」
警戒するように顔をしかめる盗賊に、王は貰い物だと笑った。
「俺も、こういう匂いはあまり好きではないが、一応一度は使っておかないと悪い」
「似あわねえ」
「お前ほどじゃない」
あまりにも、王とこの甘い匂いは結びつかない。
しかし、盗賊と比べればまだましだろう。
盗賊は帰りたくなったが、王が今日の遊戯の道具らしき板を出し、部屋に入るよう促すので仕方なく我慢することにした。
手で顔の周りを払いながら、王の前に座る。
鬱陶しい甘い香りは鼻と言わず体にまとわり付くようで気に入らない。
うまく王の説明も頭に入らない中、勝負は始まった。
よく聞いていなくても、なんとなくで理解できる遊戯だったせいか、始めは戸惑った盗賊も、勝負が進むごとに動きを円滑にしていく。
それでも、まるで感触でもあるかのような香りは動きを鈍らせた。
いや、気づけば、思考すらも奪われるような感覚に襲われる。
けれど、目の前の王の表情は変わらない。
慣れない香りに反応しすぎだと勝負に集中する。
お互いの実力が拮抗しているせいか、はたまた決着がつくまで時間のかかる遊戯だったのか、中々終らない。
一刻も早く甘い匂いから逃げたい盗賊は苛立ちながらも途中で投げ出すこともできず続けた。
一瞬の、暗転。
くらりと眩暈を起したかと思えば、いつの間にか体は後ろに倒れていた。
状況が把握できず立ち上がろうとするが、四肢に力が入らない。どころか、呼吸すらもおぼつかず、思わず息を吸い込めば甘い香りを強く吸ってしまい苦しさに悶えた。
「どうした?
勝負の決着はまだついてないぜ?」
この香りは毒かなにかだったのかと王を視線だけで追うが、王はただそこに笑って座っていた。
ただ、楽しそうに、楽しそうに、悪戯の成功した子どものように笑っている。
その口には香りを遮断するための布も、息を止めている気配はない。そもそも、あれだけの勝負と同じ時間息を止めていられる人間などいはしない。
「勝負放棄は負けだったよな?」
(起き上がれるか!!)
疑問を持って睨みつければ王はそうっと立ち上がって後ろを指差した。
砂漠の夜は冷えるというのに開け放たれた窓。
(かざ、かみ?)
盗賊の思考を読んだかのように王は頷く。
「お前はいつも俺の向かい側に座るからな。負けず嫌いなお前ならひっかかると思ったぜ」
「ひ、きょうだ、」
「卑怯も、嘘も、駆け引きも戦術の内だろ?」
盗賊はその通りだとは思いつつも絶対に肯定はしなかった。
むしろ、できなかったとも言える。
ぜぃぜぃと足りない酸素を求めて足掻き、白くなりそうな意識を保つだけでやっとだったからだ。
王は香をたいていた台に近づき火を消すと、盗賊に近づいた。
屈みこみ、盗賊王の苦しさから目尻に溜まった涙を舐め上げる。
「あっ!」
それだけで、盗賊の体は跳ねた。
舐められただけの場所が、じりじりと熱くなる。
いつもならば抑えられる声が抑えられない。手を口に持って行きたかったが、それすら自由にならない。
香を消したせいで冷たい新鮮な空気は吸えたが、息が楽になった途端、体が熱くなっていく。
王は楽しそうに盗賊の全身を見回していた。その視線にすら盗賊は熱さを覚え息を呑む。
いつもならば伸ばされる指も、降りてくる唇もない。
疼く奥をどうにもできず思わず目を閉じる。
せめて、王の視線から逃げたかった。屈辱と疼きに頭をかき混ぜられながらも、最後の理性がプライドを支えた。
「じゃじゃ馬をおとなしくさせる香とは、本当だな」
声に身をびくりと震わせる。
肌寒いほどの部屋の中で、盗賊は汗を伝わせた。
見えない分敏感になった感覚は王の一挙一動に反応する。
「勃ってる」
触ってもいないのになっとくすくす笑う声が耳を犯すようで、塞ぎたくなったが、痺れたように動けない。
いまや、盗賊はただ食べられるのを待つ獲物を同じだった。
しかし、王はいつまでも手を出そうとせず、見ているだけ。
時折、なじるような言葉をかけては、盗賊の反応に声を出して笑った。
それだけで、盗賊の自身は痛いほど張り詰めていく。微細な刺激すら快楽へと変わるのだ。
「被虐趣味があったとは、驚きだぜ」
下半身を覆う布を持ち上げた自身は、意思とは反対に反応し、盗賊を苦しめる。
いつまでも続くかのような責め苦に、いっそ殺してくれと盗賊が叫ぼうとしたとき、そっと手が伸びた。
「ひっ」
それは、望む決定的なものではなかったが、盗賊から声を引き出すだけの効果はあった。
ゆるゆると鎖骨の上を指が伝い、腹へと降りていく。
「あ、うん……ひゃああ……ぁぁん」
普段ならば抑えられる声は抑えられず、その口から漏れる。
体は絶え間なく反応し、触れられるだけで達しそうな感覚を脳へと伝えていく。
もしも、盗賊がこれよりも少しだけ理性が欠けていれば、我慢ができなければ王に懇願するか、張り詰めていた自身を吐き出していたかもしれない。
「ぁぁぁぁあああ!!」
しかし、盗賊は常人よりもひどく我慢強かった。狂うような感覚に声をあげ閉じられない口から唾液が落ちる。
なぶるような手つきに翻弄され、涙腺が壊れたかのようにその瞳からは涙が溢れた。
「も、ぁぁぅ! ひぃぅああ!! やっやぁぁぁ!!」
言葉にならない単語がぐちゃぐちゃに飛び出し暴れる。
さすがに、悲鳴にも似た声に王も楽しみより哀れを感じたのか、一度手を遠ざけ、その盗賊自身に触れるため、下半身の布へと手を伸ばした。
衣擦れの刺激すら感じすぎるあまり苦痛に変わっている盗賊はそれにも悲鳴をあげる。
早く楽になりたい、その一心で盗賊は無意識に足を開き、体を王へと寄せた。
初めて見るその積極さに戸惑いながらも、王はぐちゃぐちゃに濡れ、すでに限界を超えた自身に触れる。
「うぁっ」
それだけで、盗賊は達した。
王の手を白く汚し、それでも止まらない震えに何度も溜まった欲望を吐き出した。
そこに手が触れているというだけで絶頂から降りられず断続的に声をあげた。
「ああああああぁぁぁっ!! くうう、いっぅぅ!!」
すでには悲鳴に変わりぐったりと身を沈ませるが、それでも快楽は止まらない。
箍の壊れたかのように盗賊はただただ流されていく。
始めは驚いていた王だったが、それでも、止まらないと見ると放っておくことの方が逆に辛いだろうと手を動かす。
それにあわせて盗賊は腰を振り、王の手にこすりつけ、涙と快楽で溶けたような瞳は王を誘うように濡れていた。
王が指を中心から少し下に辿れば思いもよらない言葉が飛び出した。
「もっはや、く!!」
悲鳴は懇願に変わり、求める。
早く早くと急かし、恐らく腕が動けば王を抱きしめていただろう。
指が進入し、中をかき混ぜられれば甘い声が耳に付く。
けれど、それもそこそこにすぐ指は引き抜かれた。
「ぁ?」
不満げな、寂しげな声。
しかし、それもすぐに別の声に塗り替えられた。
王はただぬるぬるになったそこへ自身をあてがい、一気に貫く。
「あああああぁぁぁぁ!! お、! おうさ、ぁぁぁぁ!!」
びくびくと絶頂の中、白い液体を吐き出し、密着する肌と肌が汗で滑った。
王が動くごとに達し、お互いの褐色の肌が白く染まっていく。
同時に、白く塗りつぶされていく思考はもう盗賊が何を口走っているかを曖昧にさせた。
王と盗賊の境界線はどろどろに溶け、混じってしまいそうになっていく。
そして、そう時間も掛からず、王は盗賊の中に達した。
ただし、それは終わりではない。
王は盗賊に口付けると、また、腰を動かした。
王の部屋から響く声は、一晩中止まりそうにない。
「これは、効き過ぎるな」
疲労と痛み、そして羞恥にぴくりとも動けなくなった盗賊を隣に、王もさすがに疲れたのか、ベットに寝転がったまま呟いた。
台の上の香はまだ残っているが、二度と使わないだろう。
あんなのは、自分ではないと、恐らく、自分に似たなにかが自分をのっとったのだと思い込もうと必死だった。
自分がなにを口走ったか覚えてないことほど恐ろしいものはない。
絶対に、二度と、罠にはまるものか。
余韻のせいか、王が髪を撫でただけでびくりと感じる盗賊は誓った。
「まあ、珍しいものが見れたし、俺は満足だ」
今すぐ王を罵倒したかったが、昨夜口走ったことを引き合いにだされそうでやめる。
ぎりぎりと奥歯が砕けそうなほど歯噛みする盗賊を見下ろし、王は二度と聞けないであろう声を反芻した。
(お、おうさま、すき)
それは、ベットの上のトチ狂った夜の中に秘めておかなければいけない戯言。
王は、盗賊が昨日の記憶の大半がないことを感謝した。
なぜなら、盗賊の言葉にあてられた王もまた、トチ狂ってしまったのだ。
そう、たった一晩の夢に消しておかなければいけない戯言を紡いでしまった。
(バクラ、俺も)
ごくりとその先を飲み込んで、王は目を閉じた。
ドエロイことになりました(どえらいだろう!!)
もう、バクラは大変なことに。いいよ!! 遊戯王は王バクエロサイトになるよ!!
ってくらいエロを書いている気がしました。いや、実際はそれほどでもあいですよね、ふいんき(何故か変換できない/ネタです、雰囲気だってわかってます)だけですよね!
とりあえず、今回のテーマは媚薬&言葉責めでした(カエレ)言葉責めが弱いです、もっと王様に淫○とかいやらしい奴とか言わせたかったです(なんという需要のなさ)
お気づきの方もいらっしゃいますが、実はこれ、王様、バクラの名前初よびです。
なんだか、最後が甘くなってしまい、このバカップル、お姫様抱っこで駆け落ちしろよ!! っという気分になりますね(ならない)
こんなことしてる癖に、3000年後は忘れてるんだZE☆そりゃ恨まれる。