ふと、温もりに目を開くとそこには王の寝顔があった。
多少の驚きはあったものの、すっかり慣れてしまった感覚はゆるりと体を起させる。
しばらく、王の寝顔を見ていたが、起きる気配はない。
(殺してやろうか)
今なら、それこそ簡単に首の一つでも絞めてやれば目障りな邪魔が入る前に殺せる。
そう思えば、頭の奥で、熱く煮えたぎる絶望が、殺意が鎌首をもたげてきた。
思い出したくもない過去が、肩を掴み囁く。
チャンスだ。今だ。復讐が成し遂げられる。今しかない。殺せ。
そろりっと、伸ばした指は、王の輪郭に触れる。
起きるかと思えば、あまりにも無防備に、あまりにも安らかに寝続ける。
その隣には自分を殺そうとする盗賊がいるというのに。
まるで、安心しきってしまったかのように。
「やめた」
さっと過去を振り払い、呟く。
こんなに、安らかなまま死なせてたまるかと。
殺すなら、もっと、無残で、恐怖に塗れたものでなければいけない。
もっともっと、もっと、敗北と屈辱と絶望を重ねて死にたいと命乞いさせるほど苦しめて完璧なまでに、完全なまでに地を這わせて踏みつけにしてやらなければ。
魂に傷がつくほど、刻み込んでやらなければいけない。
それに、まだ、一度も勝っていない。
敗北したままでは、絶対に終らせるわけにはいかない。
「首洗って待ってろ、王様」
ふるりっと、入り込む風の冷たさに震え、手近なシーツを体に巻きつけた。
床には自分の服が乱雑に放り出されていたがなぜだか、今はただ、こうして包まっていたい。
盗賊は寝台から降りると小さなバルコニーへと足を進める。
冷たい風がその頬をくすぐったが、人のぬくもりで温まったシーツからは熱を奪いはしなかった。
見下ろす先には、昼間ほどとは言えないが明るいちらちら光る灯と夜でも見張りを続ける兵士たち。
その向こうには、真っ暗に寝静まった城下町が見える。
城下町に降り、探せばこうして寝静まる頃に開く店もあるだろうが、王宮の明るさからそれは見えない。
吐いた息が白く染まる。
同時に、背中に気配を感じて振返った。
予想通りに、そこには少し目を細めた王が立っている。
「起きたのかよ」
「ああ、シーツ泥棒に凍死させられるところだったぜ」
王はそう笑いながら盗賊のシーツを掴むと、その中に潜りこんだ。
「おい、入んな」
「俺のシーツだ」
「寒い」
「すぐに、温まる」
王はそのままシーツの前を掴むと閉じる。
盗賊は文句をブツブツと口に出すが結局は一人で包まっているよりも二人で包まっている方が温かい。
「王様よお」
盗賊は、じっと城下町を見つめながら呟く。
「あんた、王宮を望む夜景を見たことあるか」
少しだけの間。
「ないな」
「俺は、昔から何度もこの王宮を見たぜ。
いつだって、王宮はバカみたいに明るくて、灯が絶えねえ」
どうせ、あんたはこの王宮から出たことすらねえだろ。
そう、盗賊はあざ笑った。
王は答えない。
ただ、何かを考えるように俯いていた。
沈黙が続く。
王も盗賊も口を開かない。
王は俯いたままだった。盗賊はじっと城下町を睨みつけたまま。
居心地の悪い時間。
腹と背中にお互いの温度を感じながら、王は大きく白い息を吐く。
「王宮を望む夜景は、美しいか?」
「ああ、ばかみてえにな」
いつか。
いつか、こいつにそれを見せてやろうと盗賊は思う。
そう、いつか、王を玉座から引きずり下ろし、地を這い蹲らせ、これから消える灯りを見せ付けてやろう。
(きっと、もっと、美しい)
そして、殺してやるから。
王様と夜景を見るシーンは王バクファンにとって神シーンだと思います。
私的にはあのシーンが一番好きです。二番目は王様のついでに成仏したい発言です(あんまり好きだから背景にしちまったよ)
っというわけで、今回もおとなしくいちゃつかせてみました。
一緒のシーツにくるまるってどこのばかっぷるだYO。
盗賊王のあのコートでもできますよね、絶対。そうか、あの前開きは王様を入れるために……!!(黙れ)
王様とバクラには照れずに無意識にいちゃついてほしいと思ってます。3000年後でいちゃつくときは好きなだけ照れてほしいですが。