ガシャン。

 蝋燭の明かりに照らされ、鈍く輝く刃が首を狙って横切った。
 それをまさに、首の皮一枚で避ければ傍らに合った杯が中身を撒き散らす。
 床に広がった液体を踏み、すぐさま返す刃が正確に首を狙って飛んだ。
 だが、その刃を包むように視界を隠すように布が広がる。

「!?」
「落ち着け」

 布を切り裂き、打ち払った先で、王は微かに引きつった笑みで盗賊を制した。

「まだ、勝負は終わってないぜ?」
「終わったも同然だろ、次であんたの負けだ。首よこせ」
「最後までわからないのが、勝負だろ?」
「この遊戯は、先の読み合いが勝負を別つって言ったのはあんただろ。
 次の手で延命したって、3手で俺様が勝つ」

 手に光る刃と同じ鋭さの瞳が、王を貫く。
 ぞくっとするほど強く、殺意に満ちた目だった。
 ふつりと王の血が騒いだ。
 今、盗賊の視界には、世界には自分しかいない。自分しか見ず、自分しか考えない。それは、ひどい愉悦だ。
 このまま、殺しあうのもいいかもしれないという、甘い誘惑。
 しかし、王は返事の変わりに手に握っていた駒を投げつけた。
 悪あがきかと軽々とその駒を掴んだ盗賊は、ふと、手に目を落とし、そして、目を見開く。

「最後までわからないのが、勝負だろ?」

 王が繰り返す。
 盗賊は、駒を強く、砕けそうなほど握り締めると投げ返す。
 答えるように王はその駒を受け取ると、いまだ刃を手に持った盗賊の前に座った。
 盤の上、駒を置く。
 盗賊の目が見開き、唇を噛む。
 さっきまで、決して見えなかった手が浮かび上がった。
 悔しい。
 それを隠さない顔。



 まさしく、会心の、逆転だった。



「ちくしょう、あの駒は反則だろ」

 刃を遠ざけた盗賊は、悔しそうに唇を噛む。
 勝ったという確信が、優越感が一瞬にして地に落ちたことが悔しくてたまらないのだろう、適当な家具に八つ当たり気味に蹴りをくらわした。
 それを王は笑ってみている。
 目を落とした盤の上、どういった規則のものかはわからないが、ただ、盗賊側の駒が一歩も動けない状態だとわかる状態で置かれていた。
 王はその盤を片付けると変わりに小箱から赤い液体を取り出した。
 びくりっと、盗賊の体が震える。
 王の出すそういう液体や小瓶に、よい思い出がないからだ。
 注意深く睨みつけ警戒する盗賊に、王は安心させるような笑みを浮かべた。
 けれど、それはますます盗賊の警戒心をあおるだけで意味が無い。

「安心しろ、ただの紅だ」
「べにぃ……? 女官が唇に塗ってるやつか?」
「ああ」
「……王様よぉ……いつからそんな趣味に目覚めたんだ?」

 赤い、少しどろりとした液体を小皿に移し、盗賊に手招きする。

「別に、俺が目覚めたわけじゃない」

 なんだか、ひどく嫌な予感がするが、遊戯に負けた盗賊は逆らいようもなく王に近づいた。
 床の上に座るよう手で示され、座る。

「お前に塗ったら、おもしろそうだと思ってな」
「俺様、そういう趣味ないんですけど……」

 嫌そうな盗賊の顔に、王は楽しそうに唇を吊り上げる。
 そういうなとでも言うように盗賊の前に座り、視線を合わせた。
 小皿の上、赤い液体の表面に薬指をつけ、ゆるやかに温度を馴染ませる。
 赤く染まった褐色の指が、紅のあまりの赤さに血に染まっているようだと盗賊は思った。
 こんな、紅のような赤を、王の首に散らしてやるつもりだったのにっと、ひどく残念そうに。

「薄く、口を開けろ」

 王の言葉に、ゆるく唇を持ち上げる。
 その下唇に、ぬらりとした感触を感じ、ぴくっと小さく震える。
 思わず、反射的に口に含みかけて、少し顔を引いた。常日頃、王が盗賊の唇に指で触れるときは、それを口に含むことが前提である。慣れとは恐ろしい。
 顎を強く抑えられ、少し上向きに持ち上げられた。

「動くな、はみ出る」

 それに、気づいてか気づかずか、王は楽しそうに下唇に紅を引いていく。
 王の細まった瞳が、唇だけに注がれる。
 思ったよりも繊細で、丁寧な指は何度も唇を辿り、赤く赤く染めていく。
 ぬるぬるとつけられた紅は少しの風で冷えていく。
 下唇を少し厚めに、上唇を少し薄く塗れば、するりと指は遠のいた。
 化粧っ気のない盗賊の顔に、赤く、赤く唇だけが浮かびあがる。
 それはどこか滑稽ながらも、不思議な艶と妖しい色気を放っていた。
 なにかに、似ていると王は考える。

「似合うぞ」
「じょーだん」

 不機嫌そうに拭おうとする腕を止め、王は唇を重ねる。
 舌を浅くいれ、すぐに離した。
 だが、盗賊が文句を言う前にまた重ね、同じように浅く舌で口内を舐めると、離れる。
 それを角度を変え、何度も何度も繰り返し、次第に深く、長くしていく。
 最初は抵抗していた盗賊だったが、王の舌に翻弄され、しだいに溺れていく。
 お互いが舌を絡め、相手を唾液と自らの唾液を飲みこみ、唇が少し離れる間に、呼吸する。
 盗賊の背に回された王の手に答えるように盗賊の腕が王の首に回った。
 どれだけ繰り返したか、くちゅっと水音とともに顔同士がやっとしっかり見れる位置まで離れる。
 すると、王の唇にも赤い紅がついていて、盗賊は複雑そうな表情を見せた。
 似合わない、とは言い切れないが、似合うとも言い切れない。

「薄くなったな」

 その言葉に、思わずぐいっと唇を強く拭った。
 服に少し赤い紅がついたがかまうことはない。
 そう思った瞬間、顎ががっちりまた固定され、いつの間にかまた薬指につけられた紅がひかれる。
 あまり好きな感触ではなかったが、王の意味のわからない真剣さに、思わず動きを止めてしまう。

「知っているか」

 上唇に薄く紅をひく途中、呼びかけられる。
 
「異国では、こうして紅を相手に送るのはな」

 はみ出さないようにと慎重に、端をこすった。

「口付けで返せという意味らしい」

 指が離れ、また唇がくる。
 盗賊はそれを避けることもできたが、受け入れた。
 長い、深い口付け。
 ぐちゃぐちゃとそこから溶けるのではないかというほど舌を絡め、吸い、舐める。
 王は、盗賊の白い髪に手を差し込み、くしゃりと撫でた。
 それを合図とするように、王は盗賊を押し倒し、角度を少し変えて口付けしなおす。

「はぁ……」

 零れた息が熱い。
 赤い唇のまま、盗賊はちらりと視線を向けた。
 いつものうかがうような視線だったが、唇に引かれた紅のせいか、それはひどく扇情的だった。
 密着した盗賊の足に、王の固いものが当る。

「……すんのか?」

 盗賊の問いに、王は迷わず頷いた。
 そして、やっと、唇の赤がなにに似ているか思い出す。
 そう、いつか贈った、今盗賊の指に光る指輪の色と、似ていると。





「んっ」

 赤い唇が、王のソレを口内へと導くために開かれる。
 その様はなぜだかいつもよりひどく淫猥で、王の心を騒がせた。
 ちろりと覗いた舌が絡みつき、最初は浅く、すっかり慣れた様子で唾液でたっぷりと濡らす。
 ぬるぬると滑りを良くなった筋を手でたどるように多少荒くこすった。
 ちゅうっと、中ほどに吸い付き、紅でぬるつく唇でしごけば微かに王が荒い息をつく。

「おう、さ、ま……今日、いつもよりでかいじゃん……」
 
 手をとめず、唇を笑ませた。
 ぞくっとするような、強気の笑顔。
 それは、ひかれた紅のせいなのか、はたまた珍しく王を追い上げてる感があるからだろうか。
 片手で先端を人差し指でぐりっと押し、もう片方で根元を絞めるように揉む。
 巧みな手つきでソレを扱う。

(本当に慣れたものだ)

 初めはそれこそ、王のモノを触れることすら嫌がったというのに。
 まあ、飲み込みは早かったし、もう何度も繰り返した行為で慣れるのは当たり前だが、自分が翻弄されるのはなぜか癪だった。
 髪に手を伸ばし、指を通す。頭皮を撫で、そのまま首筋をくすぐった。
 くすぐったそうに眉をひそめるのを笑って見下ろし、首筋から背へと手を移す。腰を撫で、上着と腰布を一緒にまくりあげる。
 急に大気の冷たさに触れた皮膚をぶるりと震わせ、睨むような視線が足の間から突き刺さった。
 それを気にすることなく王は半分揉むように下肢を撫で、入口に触れる。

「ゃ」

 唇から声が漏れる。
 強張った表情に入口を強くぐりぐりと押せば、ソレを掴む手に力が篭った。
 さすがに握りつぶされるのは恐ろしいため、一度手を離し、その下、足の間へと手をいれる。

「っま、て」

 まだっと口にしかけて、黙る。
 続きは少し待ってもこなかったので、王は多少硬度をもちかけていたソコを刺激し、ぬるりとした先走りが溢れるまでいじり、手を濡らす。
 
「は、ああ……」

 ゆるやかな手つきに小さく声を漏らしながらも、赤い唇を王のソレに戻した。
 軽い喘ぎと、吐息がまた違った刺激に、王は自分の絶頂が近いのを感じる。

「もっと、奥まで、飲み込め」

 ぐいっと、後頭部を抑えると、喉の奥へと押し込んだ。
 むせそうになりながらも口内は蠢き、喉奥が締め付ける。
 顔を引こうとするのをよりいっそう突き入れ、小さく囁いた。

「出すぞ、飲め」

 いやっと首を振る前に喉に白い液体が注がれる。
 上手く飲み込めず白濁は唇から零れ、盗賊は苦しそうに目を閉じた。
 目尻に溢れた涙がぼろっと落ち、輪郭を濡らす。
 それでも、口の中から王のモノがでていかないことに、しぶしぶと口内の白濁をごくりっと、飲み下した。
 苦い味にますます顔をしかめれば、やっと王のモノが口から引き抜かれる。

「まず……」

 恨みがましい声で言えば、王は肩を竦め、盗賊の体を押し倒した。
 足を開かせ、先ほど硬くしたモノに舌を這わしながら更にその下にも手を伸ばす。
 先ほど濡らした指を、浅く突き入れる。

「あ、ぅ……んああ!?」

 漏れる声を押し殺し、盗賊は唇を噛む。
 赤い唇が、掠れ、頬を汚した。
 その赤が、ちらちらと王の資格を刺激する。
 なんとか刺激を逃そうと体をくねらせるが、前と後ろを同時に責められ我慢ができない。
 王はいつもより少し性急に盗賊の体をほぐし、絶頂へと導いていく。
 その速さに盗賊は顔を歪め、しかし快楽に酔いながら喘ぎ声をあげた。

「やっぐ、あああんん!!」

 指が二本に増え口に含まれた盗賊のソレを軽く噛む。

「は、はや! はやい!? おぅさ、はやい!?」

 うまく言葉に出来ない声で制そうとするが、王は止まらない。
 激しく中で指を動かし、盗賊の弱い一点をつきあげる。
 何度も何度も突き上げられれば、盗賊の体は強く跳ね、ぴんっと足が伸びた。

「ひっひ!! ぁぁぃ、くっぅ!! いっ!! ひゃあ!!」

 がくがくと2,3度震え、王の口内に吐き出す。
 王はごくりっと、盗賊とは違いあっさりと飲み干すと唇を舐め、後ろから指を抜いた。
 思わず逃げようとする盗賊の足をしっかりと抑え、十分に盗賊が濡らしたソコをあてがう。

「なっ、なんか、きょ、今日お、うさま、はや……」

 体を強張らせるのにも構わず、王は盗賊の唇を荒く奪い、紅を舐めて拭った。
 完全にいつもの唇となった盗賊はわけがわからないという表情で王を見る。
 王はいつもより少し困ったように笑うと、口の端に掠れた紅も舐めて拭う。

「赤に、当てられた」

 そう呟いて、ぐいっと自分のモノを盗賊の体へと一気に穿つ。
 悲鳴。
 最奥へと突き込むと、一気にギリギリまで引き抜き、もう一度突きこむ。
 それを繰り返し、ぐちゃりぐちゃりと水音をたてる。

「お、う、あああ!!」

 しがみつき、盗賊は王の肩に噛み付いた。
 いつもよりも激しい腰の動きに、王の皮膚を突き破り、赤い血を滲ませる。
 その血は、唇に付着し、また紅のように唇を彩った。



 そして、盗賊は自分の最奥に熱い飛沫を感じると、また自分も達する。



「お前は赤が似合うな」

 盗賊に噛み付かれた肩をさすり、王は言う。

「前にやった指輪も、似合うぞ」

 半分意識の飛んでいる盗賊は、それに答えず目を閉じた。
 その指には、しっかりと指輪が光っている。

「きっと、血も、似合うだろうな」

 王は、夢想する。
 血に塗れた盗賊を。
 その血が、自分のものか、はたまた盗賊のものかはわからない。 
 ただ、想像の中の盗賊は、壮絶なまでに美しく、激しい笑みを浮かべている。
 そう考えるだけで、ぞくりと、もう一度盗賊の体を貪りたくなった。
 
「お前は、赤が似合う」

 楽しそうに、楽しそうに王は微笑んだ。



 紅なので、女装じゃないので、セーフセーフ!!(アウトー!!)
 赤い唇って色っぽいですよね。唇だけ赤いと妙に蟲惑的ですてきかと。唇だけっていうのがポイントで。赤い唇でふぇr萌え(撲殺)
 えーっと、通常口紅とかは下唇だけにつける方法が主流ですが、紅なら上唇に塗るときもあります。後、王様も別に女装は趣味じゃないので、塗り方なんか知らないという方向で。
 ちょっと最近首にこだわっていなかったので、首にもこだわらせてみました。
 そして、王様のバクラになら殺されてもいいなーっという願望を多めに。

 バクラは、赤が似合うと思います。
 血まみれバクラとか書きたい……。



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