王の前戯は長くしつこい。
 それが生まれゆえの余裕なのか、はたまた生まれついての性質なのかはわからなかった。
 ただ、どちらかと言えば生まれと性質ゆえに性急な盗賊にはそれがひどくもどかしくてたまらなかった。
 最初はそれこそ、王も焦っていたのか前戯もほどほどの場合が多かったのだが、最近は違う。
 どうにもこうにも、最低でも二回は盗賊を絶頂に追い詰めようとするのだ。
 必死に抗う盗賊だったが、すっかり王に慣らされてしまった体はひどく敏感で素直だった。そんな体で抗えるわけもなくあっさりと何度も、歯噛みすることになるのだが。
 そして、今日も勝者である王は、盗賊の体を好き勝手に扱う。

「おう、さまあ……しつけえ……」

 思わず息も絶え絶えの盗賊が漏らす言葉。
 それも確かで、今日の王はとにかくしつこかった。
 なにかあったのかもしれないが、決してそれを盗賊は聞かない。王も盗賊の普段を決して聞かないからだ。
 なんとなくの暗黙の了解を噛み締め、そっと、自分の吐き出した液体まみれで白く染まる下半身を見た。何度イかされればこうなるのだろうというひどい有様に溜息が漏れる。
 普通は追い詰められるたびに意識は混濁し、わからなくなっているが、さすがにここまでくると逆に冷静に考えられるようになってしまう。
 よくもまあ、飽きないものだと考えながら、深く埋め込まれた指に体を何度も震わせた。
 もういい加減にしろという意味もこめて、力の入らない足で蹴ってみるが、足を愛撫されるだけで意味は無い。
 後ろも前も、ついでに足も嬲られ声が止まらない。
 恐らく、片手を超える数になるだろう絶頂がまた近づいているのだ。
 もうイくことすら苦痛に変わっている盗賊は嫌だと訴えるが、王はただ、足の間から盗賊と目を合わせるだけでやめようとしなかった。

「ひっ! やっ!!」

 中の締め付けを強くすれば、指が激しく内部を蠢く。

「も、もういっ……や……め、ぁぁあん」

 ぼろぼろと涙と唾液に汚れた顔を何度も振り、絶頂に構えた。
 縋るもののない盗賊の手が暴れ、目を強く閉じたままシーツを強く掴む。
 それでも、逃れることのできない刺激は盗賊を追い詰め、中心を誇張させた。すでに、喘ぎ声か「嫌だ」しか盗賊の口からでなくなっている。
 前を強く握り、かき混ぜるように指を動かしながら、王は一度目を伏せた。

「すまない」

 ぽろりと零れる言葉に、盗賊は目を見開く。
 刺激はまだ続いているが、それよりも一瞬だけ驚愕が上回ったのだ。 
 だが、それもやはり一瞬のこと、波にさらわれるように盗賊の体は果て、意識が遠ざかる。
 もう、自分がなにを言っているかも曖昧だった。
 快楽と、恐怖に体がガクガク震える。これ以上イかされてしまえば、自分がどうなるかわからなかったのだ。
 王が指を抜き、そっと、完全に意識が手放せない盗賊のその目の下の傷に口付ける。
 その感触すら恐ろしいのか、盗賊はひくりと表情をゆがめた。

「も、むり、やめ……」

 途切れた涙がまた溢れ、すっかり力の入らない体が必死に逃げようと手を動かすものの、あまりにも意味が無い。
 けれど、王はひどく悲しそうに目を細め、もう一度口付ける。

「すまない」

 繰り返される言葉。
 王はただ、強く盗賊の体を抱きしめ、すがるように頬を寄せた。
 寂しい子どものようにその心臓の音を聞きながら、もう一度、謝罪の言葉を繰り返す。
 じっとりと汗ばんだ皮膚はどちらかといえば気持ち悪かったがなんとなく、密着しているだけで動揺していた盗賊の心も落ち着いていく。
 そうっと、王の背に腕が回された。王は、それを少し驚きつつ受け入れる。


「終らなければ」


 盗賊は、黙って王の言葉を聞いていた。
 なぜだか、ひどく眠くなるようなゆるやかなテンポで、王は語る。


「お前は帰らないから」


 ずっと、終らなければと思った。
 少しでも長引けばいいと。
 以前あったように、昼まで寝てしまえばいい。
 そして、そのままずっと、いればいい。
 こうして、ずっと。
 いつまでも、お前が帰らなければいい。
 知っているか、人は死ぬんだ。
 死ねば、もう二度と会えはしない。
 誰も、それに逆らえはしない。
 今日、ある女官が死んだ。
 原因は聞いてない。
 たぶん、しばらく見なかったから病気だろう。
 長く世話になった女官で、よく怒られたが、ダイスキな女官だった。
 傍にいたのに、いつの間にかいなくなって、そして二度と会えなくなった。
 近くにいたものですらそうなのに、傍にいないお前なんて本当に、いきなりいなくなるだろう。
 ……寝たのか?
 ……すまない。
 バクラ、すまない。
 愛してる。
 好きだ。
 お前を離したくない。
 どこにも行くな。


 柔らかなキスを一つ、瞼に落とされた。
 盗賊は、自分が聞いているのか、聞いていないのかすらあやふやになっていく。
 何か言いたかった。
 憎まれ口を、たたきたかった。
(お前を殺すのは、俺だ。だから、絶対に、いきなりいなくなるなんて、)
 夢うつつの中、真実は曖昧になっていく。
 目覚めれば、王は今までどおり。盗賊も、今までどおり。
 何一つ変わらない。
 そんなもの。
 それでも、今は、なんだか盗賊はどうでもよくなってしまった。

「ぉ、まぁ、」 

 ほとんど眠ってしまったというのに、口が動いた。

「あいしてる」

 しかし、その声を聞くはずの王も、酷く眠くて夢うつつで。
 それが真実なのか誰もわからなくなってしまった。



 不安定な王様と、なんだかどうでもよくなって、素直になった盗賊。
 でも、どっちもきちんと聞いてない。
 なんという上滑りの告白。
 大切なものの死に直面すると、更に大切なものを失うことに臆病になってます。
 一応、この連載気味はオチまできっちり考えているのですが、終わりが怖くて管理人はずるずる続けてしまいます。
 もっと、2人の蜜月が続いて、エロい王バクがかきt(撲殺)
 あっちなみに、王様はやってません。相手を満足させるだけで結構自分も満足なタイプなので。
 あんまり描写がなかったので、もう少し濃厚にしてもよかったかな……っと後悔……。 
 まあいいか……。



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