「王様?」

 盗賊がもうすっかり慣れた動作で部屋に忍び込んだ時、部屋の主は存在していなかった。
 それなりに王の奇行を認識し始めた盗賊は辺りをきょろきょろ見回し、気配を探る。
 どこかに隠れていて、油断した頃になにか仕掛けてくるのかと思えば、本当に無人らしく、盗賊はずかずかと入り込み、その寝台に座った。
 よく考えればいつもすぐ勝負を始め、終ればすぐに押し倒されるパターンから、こうしてあまりじっくり部屋を見ることはなかったように思える。
 そもそも、これほど王の部屋が無防備でいいのだろうか。
 いっそ、物色して金目のものでも盗っていってやろうかと盗賊らしく考えながらも動かない。
 本当にそうしてもよかったのだが、そうすることで王にどんなことを言われるかと思うと体が重く感じる。
(あいつに哀れみの目で見られるくらいなら、舌噛んで死ぬ)
 ぼすっと盗賊はそのまま寝台に倒れこんだ。
 それなりに使い込まれているが清潔なシーツからは、香のような微かな甘い香りが漂う。
 思わず、目を閉じれば、思ったよりも疲れていたのか、盗賊の意識はあっという間に闇の中に沈んでいく。
 起きなければ、そう思うもののすでに瞼は重く体からは力が抜けていた。
 静かな寝息が部屋に響くのに、さほど時間はかからなかった。



「寝ているのか?」

 自分の部屋に入った王は、あまりにも堂々と寝台に寝転んでいる盗賊に声をかけた。
 あまりにも無防備な姿に、自分以外に見つかったらどうするのかと思うが、この部屋に自分以外のものはそうこないと思い直す。
 近づけば起きるかと静かに距離を縮めるが、起きる気配はない。
 横向きに身を縮め眠る盗賊は、どこか子どものようで愛らしい。
 覗きこんだ顔は、いつも気絶させたさいに思うが年齢のわりに幼く、ひどく美しい。睨んだり、目を吊り上げたり、不機嫌な顔をしていないせいだろう。ずっとこんな顔をしていればいいという考えと、怒った顔も捨てがたいという二つの思考が過ぎる。
 そっと白い髪を撫でてやれば、微かに表情が緩んだ気がした。

「バクラ」

 呼ぶ。

「好きだ」

 返事は無いのはわかっていた。
 返事など、必要なかった。
 その生え際に唇を落とし、目尻や頬、輪郭に何度も柔らかく触れる。
 起きているときはくすぐったいや気持ち悪いと拒絶される行為だったが、寝ていれば別だった。
 ひとしきり口付ければそれは徐々に首や服の隙間から見える鎖骨へと降りていく。
 その感触にびくびくと盗賊は身を震わせた。
 さすがに起きるかと動きを止めれば、聞こえてくるのは寝息だけ。少し安心しつつも、思わず笑みが浮かぶ。
 どこまですれば起きるだろうか。
 服の上からその胸の突起を少し強く押した。
 微かに震えはしたが、やはり起きる気配はない。
 そのまま、少し調子に乗って王は胸の突起をいじりながら耳を舐める。
 びくびくとした反応と、少し熱い息を吐き出しながら盗賊はうめく。
 さすがに起きたかと、そのまま首に舌を這わすが、どうやらうめいただけのようでその瞼は閉じられたままだった。
 すっと、下半身に手を伸ばす。

「寝ていても、感じるのか」

 指で弄びながら、反応を楽しむ。
 すっかり手の中で硬くなったのを確かめると足を持って体勢を変えさせる。
 思ったよりも簡単にごろりと動いた体を見下ろし、足を開かせた。
 すっかり熱くなった肌を撫で、乱れた息を感じる。
 腰紐を解き、服をまくりあげれば、寒いのか震えた。
 ふと、寝台の隣に香油の瓶が目に入る。

「………」

 本当に、一番最初に抱いた時以来ほとんど使っていない瓶を手に取り、考える。
 以前に香を使った時から、香はおろか液体、この部屋においてある食べ物すら口にしないほど警戒するようになってしまった盗賊には使っていない。
 王は意外と前戯に時間をかけるのが好きなため、別に使わなくてもいいのだが。

「たまには、いいか」

 一度手にあけると、ぬるりと下半身を濡らす。
 かなり滑りのよくなった指で後口をなぞり、指を入れた。
 たっぷりと香油に塗れた指はすんなり、とまではいかなかったが侵入する。
 香油を馴染ませるように何度が抜き差しし、少し深く指を埋めた。
 盗賊の体が、大きく跳ねた。さすがに、異物感に瞼が動き、眉がぎゅっと寄り、眉間に皺を刻む。

「ん……」

 うっすらと開かれた目が、王をうまくとらえられず揺れていた。
 それでも、王は指を止めず、むしろ二本目をいれ、器用に動かす。
 状況がよくわかっていない盗賊は混乱し、抵抗のように、悶えるように体をひねった。

「ぁ、ぁあ、あ……」

 内壁をひっかき、指の腹で最も盗賊の感じる点を撫でる。
 そうすれば、開いた口からは素直な甘い声が漏れた。

「なっあ……? ん、あふぁ?」

 段々意識が覚醒してきたのか、目を見開き、盗賊は自分の状況を見つめた。
 ぬるぬるする下半身と指の感触が気持ち悪い。しかし、すっかり王の愛撫に慣れた体は反応し、背筋に快楽を流す。
 ゆるやかだった動きを激しくし、強くぐりぐりと一点を押し付ける。

「ぃああああぁぁぁ……!」

 柔らかな快楽が急に強い刺激に変わったせいで、盗賊は叫びとともに完全に覚醒する。
 飛びそうになる記憶をかき集めれば、自分が王に襲われている事実に行き当たった。

「てええええぇぇ!!」

 ろれつの回らない口を動かし、王へと腕を殴るために動かす。
 器用に王はそれを避けながら指を増やした。

「あう、なっにしやがるぅ!!」
「気持ちよさそうに寝ていたから、もっと気持ちよくさせてやろうと思ってな」
「よけひな、世話だあ!!」
「そう言うな」
「くっ!! しょ! 変な薬とか、つかいやがったのか!!」
「ただの香油だ」
「おれはてめ、とやりにきてんじゃねえんだぞ!!」
「そうだったか?」

 つれないなっと笑いながら円を描くように指を回した。
 締め付ける内部を押し返し、ひねりを加えつつ激しく出し入れする。滑りのいい香油はきつさをものともせず激しく指を動かすことを可能とさせた。

「はっ、ぁぁ、ひゃん……ひぃ!!」

 盗賊は腕を噛んで声を抑える。
 耐える心構えもないままに寝ていたせいでまったく無防備だった感覚を好き勝手に扱われ、どうしていいかわからない。 
 抵抗しようにも足は抑えられ、すでに高まってしまった熱はどうしようもなく力が入らない。
 主人とは反対にびくびくと反応し、張り詰め濡れたそこは今にも欲望を吐き出しそうだった。
(やばいやばいやばいやばいやばい!! くそっ!! このバカ王!!)
 自分の限界は一番自分が知っていた。
 意識が全て持っていかれそうな予感。涙と快楽に滲む視界。水音。自分の声。王の表情。
 全てが入り乱れて脳へとやってくる。

「あぅ、ぅうぅ。ひっひ、ぁんん!」 
 
 食いしばる力がなくなり、開く口から声があがる。
 必死に口を閉じ、たまった唾液を飲み込もうとすればむせてしまい、再び口を開くことになってしまった。
 せきこんだ盗賊に王は少々驚きながらも指を止める気配は無い。
 まったくと言っていいほど前を触られていないのに、絶頂はやってくる。

「そろそろ、後ろでイけるか?」
「いっや、だ! やめ、やめぁぁ! ふっ、やめ、や!」

 男だというのに、前ではなく後ろで行く。
 それはプライドの高い盗賊には信じられないほどの屈辱だった。
 今まで何度も絶頂を迎えかけたが、そのたび必死に我慢していたというのにこんな不意打ちで。
 盗賊は体が自由であれば歯噛みし王を罵倒していたに違いない。

「いやっていって……ヒッ……あ、あぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 びくんっと、体が大きくしなり、半分ブリッジをするように体がねじれた。
 目は見開かれ、開かれた口と伸ばされた腕がなにかに縋るように虚空を彷徨う。目尻から涙を零し、盗賊の顔はあっという間にぐしゃぐしゃになった。
 同時に、白が飛び散り、褐色の肌を汚していく。
 それでも、指は止まらない。
 指にあわせて何度か分けて白を吐き出し、絶頂から降りられない体が痙攣を続ける。
 欲望を吐き出した筈のそこはまだ足りないとばかりに反り返って白く濁った液体を零している。

「後ろだけでイけたな……」

 王の嬉しそうな声すらうまく耳に入らない。
 逆にうまく出なくなってしまった声の変わりに、視線を向けるが、睨むというほど強いものには決してならなかった。
 ずるりと指を抜かれ代わりに別の物があてがわれる。
 盗賊は諦めたのか、それをじっと見ていた。
 しかし、やはりいくらほぐしたところで、指とは質量の違いすぎる。
 少しづつ、目は見開かれ、苦痛に口が歪む。

「いっう、あっあ、―――――っ!!」

 だが、止まらない。盗賊の体に王のものが穿たれた。
 強く、強く中が締め付けられたが、香油のせいかきついが動きやすい。
 いつもより小刻みに締め付ける内部は王にも思わず溜息を吐かせた。
 思わず閉じた瞳が開かれると同時、王は盗賊の腕を掴み、その首にひっかけさせる。
 そして、涙に濡れた顔に何度も口付けると、ひどく、ひどくすまなそうに耳元で囁いた。

「今日は、ゆっくりできそうにない」

 盗賊が口を開く、が、声が出ない。
 ただ、視線には非難が滲んでいる。
 けれど、王は腰を動かした。いつもより滑りのよいそこを激しく突き上げ、かき混ぜる。
 響く盗賊の悲鳴を横に、溶けそうな熱の中、いつも思う。

(このまま、溶けて混じるのも、いいな)

 しかし、人間は液体でなく、これだけの熱では溶けようもない。
 王の考えはただそのまま、快楽の波に消えていく。

「お、さま……」

 激しく揺さぶられながら、盗賊は王を呼ぶ。

「とけ、る」

 溶けるといいな。
 王は小さく小さく口の中で呟いた。



 寝てる間に! 香油! 後ろだけで!
 結構前からやりたかったエロシチュを解消しました……(いい顔するな)
 恒例の、どうでもいいエロ知識。後ろと前ではイくときの感覚が違うそうです!(うわ、どうでもいい!!) 
 今回は、ゲームせずやられてしまいました。きっと、ものすごく怒ってると思われます。でも、王様は怒られても平気。
 しかし、描写が微妙にワンパターンになりがちなので、そこを改良したいところです。
 あんまり直接的な表現をしているので、湾曲表現に困ります……さすがに、どこぞのBL小説のようにアレな表現はしたくない……。
 もう、遊戯王のエロい人で……いいや!!(開き直るな!!)
 王様とバクラの間には、隔たりが多すぎると思う昨今です。魂だけになっても。


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