王は盗賊の体を揺さぶりながら思う。
 ぽたりと自分のかいたあせが白く汚れた盗賊の腹に落ちた。
 それは、すぐにぐちゃぐちゃとそれ以外の液体と混じりあい、肌と肌の間でこすれあっている。
 耳元で苦しげな声を漏らす盗賊の腕が、自分の背に触れている事実を感じながら、思う。
 いつから、盗賊はこうして自分に縋るように腕を回すようになったのかと。

「ひゃ、ぁ、お、さぁ」

 いつから、こうして無理矢理ださせなくても、抑え気味ではあるが声を出すようになったのか。

「ん、はぁぁ……」

 きつくきつく王を締め付けながら盗賊は王の肩を噛む。手加減する余裕がないのか、それは柔らかな皮膚を破り、血を滲ますほど強い。
 しかし、それを王は許した。
 微かな痛みなど、今こうして王が盗賊を抱いた時に生み出される痛みに比べれば些細なものだったからだ。
 きしきしと硬いベットが悲鳴を上げる。
 血の味に気づいた盗賊は、王の肩を今度は噛むのではなく血を拭うように舐め、吸い付いた。
 そんなこと、最初に抱いたときは決して想像も望めもしなかったこと。
 ぴちゃりと口の端から血と唾液の混じったものを伝わせながら、盗賊は肩に顔を埋める。
 見えない顔は、きっと快楽に染まり、その目は焦点を合わせていないだろう。
 王はそう確信しながら、その盗賊の耳朶を舐め上げ、そっと、囁いた。

「好きだ」

 びくりっと、盗賊の体と、王を締め付ける内部が痙攣した。
 先ほどまで快楽に溺れきっていた瞳と顔は引き締められ、甘い声は掠れた悲鳴と共に立った一言を吐き出す。

「う、そ、だ」

 嘘だ。
 嘘だ嘘だ嘘だ。
 そう、否定する。
 ぶんぶんと首を振り、必死に快楽に抗い、零れる涙もそのままに繰り返す。
 王はその返事に苦笑しながら腰を動かした。
 痛みを伴うほど強く耳を噛み、わざと勝ち誇ったような声を出す。

「なら、俺の勝ちだ」

 激しく突き上げれば、否定の声は甘い声へと変わっていくが、それでも、瞳だけは否定していた。
 王を嘘つきと責めていた。
 卑怯な王を罵るように。

「う、ぁぁ、そぉ、んん!」


 王は笑う。 
 決して、盗賊の見ることのない笑み。
 見られては、いけない笑み。
 限界が近いのか、ぎゅうと瞼が硬く閉じられ、背中に爪が立てられた。
 その痛みを甘んじて受けいれ、悲しげに微笑んだ。
 血の滲む傷はしばらく王に残るだろう。
 盗賊の唇を塞ぎ、その口内を蹂躙する。
 ろくな抵抗も反応も出来ない盗賊は強く痺れるほど舌を吸われもてあそばれる。

「ぁ! いっ! ぁぁん、く!!」

 そして同時に今にも爆発しそうな中心の頂点を親指でぐりぐりと刺激された。
 盗賊の体が絶頂の予感にしなり、もがく。
 粘膜同士のこすれあいはより激しく、追い詰め、高めた。
 引っかいた場所をもう一度引っかき、盗賊は身を硬くする。それは、イく前の癖。
 だからこそ、王は狙い定めるようにぐいっと深く深く突き上げた。

「愛してる」

 そんな言葉と同時に、盗賊は果てた。
 ぐったりとした倦怠感と共に疲労の波が盗賊の意識を奪っていく。
 中に熱い何かがぶちまけられたのを感じつつ、それでも、必死に唇が動いた。

「う、そ」
「なら、俺の勝ちだ」

 同じ言葉を、泣きそうな笑みで呟いた。



「嘘、と言ったらお前の負けだ」

 王はそうルールだけを押し付けて盗賊に愛の言葉を囁いた。
 盗賊はすぐさま否定し、負ける。
 勝つはずのない遊戯。勝ってはいけない遊戯。
 愚かな王の哀れな駆け引き。
 あまりにも、無意味な行為。


 王は、勝ちたかったのか、それとも、負けたかったのか。



 愛を囁く王様と、愛を拒絶する盗賊と。
 勝敗の決まったゲームほど、滑稽で切ないなものはないですよね!
 もう、二人ともヤってばっかりです!
 けれど、少しづつ、少しづつ、愛し合ってしまう。
 そんな変化を最初から見出していただけると嬉しいです!


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