少女は、言葉に表せないほど美しく、そして優しく、母と自分を愛してくれる祖父が好きだった。
 祖父は、片方だけだが、力強い手も、うっとりするような美声も、全て心地よい。
 甘やかされて育てられていた。
 無知で無垢で無邪気で、怖いもの知らずだった。

「おじいちゃまはわたしのこと、すき?」
「大好きだよ、レプレ。愛しい私の孫」
「じゃあ、おじいちゃまはママンのこと、すき?」
「ああ、世界の誰よりも過去にいた誰よりも、未来に生まれる誰よりも愛しているよ」
「じゃあ、パパンは?」



 だから、自分が言ってはいけない言葉があるとは、知らなかった。



「ルッスー!! ルッスー!! こわいよー!! うぐっ! えぐぁ!! こわいよ!!」
「……そう、ついにこの世の恐怖の一端を知ったのね……逆鱗を知ったのね」
「おじいちゃまこわいよ!! こわいよ!! こわいよ!!」
「レプレ、落ち着いて、少し大人になったわね」
「パパンー!! ママンー!!」



 それから、少女はしばらく「こわい」以外の言葉を発することができなくなった。 



「おい、テュール、大人げねえぞ……」
「はあ? 俺はなにもしてねえよ
 ただ、かわいいレプレに笑いかけただけだ」
「しらばっくれんな。殺意むき出しにでもしたんだろ……レプレはただでさえ敏感なのにお前の殺意くらったらトラウマだ!!」
「……俺は、クソガキがレプレの親父だなんて、認めてない……」
「あー……はいはい、傷ついたのは自分だって言いたいのな……」

inserted by FC2 system