小さな手が必死に頬を撫で、赤い瞳が悲しげな銀を写した。
「ままん、なかないで」
銀が、この世のなによりも愛した赤と同じ瞳を持つ幼子は、そう繰り返す。
涙一滴零さず、表情一つ変えない銀に「なかないで」と繰り返す。
何も教えられていないというのに、何も知らないというのに、まるで、全てを知っているように。
「だいじょうぶ、だから」
赤い瞳に激情はなく、ただただ穏やかだった。
けれど、少女の赤といつかの赤は同じ色。
「かえってくるよ。だいじょうぶ、だって」
笑う。
無垢な少女の笑みはどこまでも純粋で。
「ぱぱんのかえるばしょは、ままんだから」
銀は、少女を抱きしめた。
その脆すぎる体を抱きしめて、声もなく泣く。
何年も流し逃した涙は止まらずに少女の服をぬらした。
「ままん、ままん、だいじょうぶ、また、わらえるから」