さらば腐れ縁



「久々だなあ、シャマル」
「おうよ」
「あの時からだから……半年ぶりだなあ」
「別に、何年も会ってない時もあったから珍しいことでもないだろ?
 そもそも、会ったとしてもまともに会話したこともなかったからな。アイツが話してると切れやがるし」
「そりゃそうだあ、ところでよ」
「ん?」
「親父、テュール死んだぞ」
「あっやっぱな」
「知ってたのかあ?」
「俺は医者だぜ、あの時、テュールが無理矢理病院にぶち込まれた時から長くないのは見りゃわかったつーの」
「マジ驚いた、親父でも死ぬんだなあ」
「だろうな」
「実感わかねえ……死体とか見てもよ、親父すぐひょこっと起き上がってた「嘘だよ、びっくりしたかい?」とか言いそうだしよ。むしろ、死んでても普通に起きてそうだろお?」
「まあな、殺しても死なないような奴だったしな。
 むしろ、実際何度かアイツの葬式出たぜ、俺は。まっ全部偽装だったけどよ」
「シャマル、葬式くるかあ?」
「まだしてないのか?」
「おうよ、遺体はねえけどよ、親父の知り合いとか集めんの大変でよ。っつーか、一番は親父の信者どもがこぞっておしよせたからなあ。親父の死体の前で後追い自殺始めるからめんどくさかったぜえ」
「……葬式にはいかねえ」
「ふーん、遺品とかいるかあ?」
「絶対いらね、送りつけてきたら捨てるぞ」
「捨てたら戻ってきそうでこええぞお、親父の遺品」
「うわ、そりゃこええわ」
「……泣かねえのかあ?」
「なんで俺が泣くんだよ」
「笑わねえのかあ?」
「笑ってるだろ?」
「そうじゃなくてよお……」
「お前こそ、泣かないのか? アイツが死んだのに。
 笑わないのか? あいつから解放されたのに」
「………別に」
「俺も別に、つーか、なんで俺んとこくんだ」
「親父、シャマルのこと気に入ってたからよお」
「気に入ってる!? バカ言うんじゃねえよ!! あれはな!! 殺されかけてたっつーんだよ!!」
「俺だって、殺されかけてたぜえ」
「………」
「親父さあ」
「おう」
「周りからすげえキレイだとか、美人だとか言われてただろ」
「ああ、性格と人格と反比例してたな」
「俺、んなこと思ったことなかったんだけどなあ。なんつーか、怖い。そう、親父はめちゃくちゃ怖かった。化け物みたいなもんだと思ってた」
「あいつほど怖え奴はしらねえよ」
「だけどよお、ベットの上でぼーっとしてる親父見てたらさ、妙に、キレイだって思ったんだぜえ。
 ちょっと痩せたくらいで、なんも変わってねえのに。おかしいだろ」
「おう、おかしいな、大爆笑だ。アイツがおとなしいなんて」
「いや、親父結構さ、ぼーっとしてたんだぜえ。あんた、親父が病院にぶちこまれた時から親父にもあってねえだろ? 親父よお、ベットの上でぼーっとするようになったんだ。俺が行くとよく笑って喋るけどな、ぼーっとしてんだよ。ルッスーリアとは心配しちまってさあ、俺に見舞いいけいけうるせえの」
「痴呆症でも始まってたんじゃねえの?」
「親父さあ、扉開けると誰がきても最初に絶対俺の名前呼んでたんだよな。どうせ気配でわかってるだろうによお。医者にめちゃくちゃ笑われた」
「嫌がらせだな」
「だろうなあ、でもよお」
「でも?」
「親父が死んだ日、俺が扉あけたら、親父、俺の名前呼ばなかったんだぜ」
「寝てたのか?」
「ちげえ」















「シャマルって、親父呼んだ」















「めっちゃ驚いた」
「わけわかんねえよなあ」
「気配でわかってる筈なのに」
「あんたの名前呼んだんだぜえ」
「もしかしたら、死に際だったからよお、走馬灯見てたかもしんねえけど」
「でも、あんたの名前だった」
「病院にいる時よ、一度も親父、あんたの名前口に出したこともなかったのに」
「家光があんたの話題出したときもよ、無視してたのに」
「あんなに、あんたで遊びたがってた親父がさあ」
「見舞いにこさせろとも、どこにいるかともちっとも言わないでいたのによお」
「全然、口にしねえでやんの、だからさ」
「めっちゃ驚いた」













「親父ってよ、俺以外愛せたんだな」

















 うぬぼれでも、なんでもなく、自然と事実を口にするような呟き。
 それは空気のように広がって、風と一緒に消えてった。
















「シャマル、泣いてんのかあ?」
「……笑ってるだろ?」
「そうだなあ」





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