腐れ縁を予言される



 俺が初めて会ったヴァリアーのボスっていうのは存外穏やかなじじいだった。
 ヴァリアーのボスと言ったらもう、俺にいきなり切りかかったあのバカみてえにキレた狂人の親玉ってもんだからそりゃもう恐ろしい奴を想像していたのにだ。
 強いってことは一目でわかった。恐らく、あの狂人より強いだろうが、怖くはない。
 よく考えればそりゃ、いくら殺人集団みたいなとこに所属してるからってあの狂人みたいに四六時中笑ってるのに殺人鬼みたいな殺気を放っている方がおかしいだろう。
 そのじじいはなんか社交辞令みたいに俺にヴァリアーに入らないかとかなんとか言ってきたので俺は当然断った。
 狂人みたいに切れないし、むしろ、わかってたように笑ってそうかと呟いた。
 俺はそうだよっと返すとにこにこ笑いながらなぜか狂人の話をしだした。さっきまでの少し硬い口調から、まるでダメ息子を語る父親のような柔らかな口調で。
 狂人の名前はテュールで、年は俺より少し上、最近ヴァリアーの幹部になったとか。前半はどうでもいい話だったので聞き流していれば後半から不穏な単語が混ざり始めた。
 いわく、蛇よりも執念深く、いわく、ボンゴレの前に所属していたファミリーでは気に入らないからと身内殺しを繰り返し、その強さはいまだ発展途上ながらヴァリアーの幹部連中よりも強く、そして、一度獲物に定めた人間は必ず殺されている。

「あやつはのう、どうやらシャマル、お前を気に入ったようじゃ」
「はあ!?」
「あやつは否定するだろうが、お前を語った時のあの笑顔には感情があった。
 たぶん、あやつはまだまだ縁がありそうじゃから頼むぞ」
「いっいやだ!!」
「いやだと言ってもたぶん、あやつから逃げるのは無理じゃぞ?
 今まであやつから逃れられたのは9代目候補だけじゃから……それも、仲間に引き込むことで鎖に繋いだ程度だがな……」
「ヴぁっヴぁりあーに入ったらあいつ追いかけてこないとかは……?」
「ないな、これ幸いに無理矢理自分の部下にでもして……」
「ぎゃー!!」
「その、台風にでも合ったと思ってあきらめてくれ」
「思いっきり人災じゃねえか!! あんた上司なら止めろよ」
「いや、あやつわしの言うこと聞かんし」

 想像するだに恐ろしい震えが止まらない俺をにこにことじじいは見ていた。
 国外逃亡すら考えながら怯える俺に、小さく小さくじじいは何かを呟く。
 俺はそれを聞き取れず、ただただこれからのことしか考えられない。
 そう、あいつとの長い長い縁が、そこでじじいによって予言されたのだ。

「大洪水にあったと思ってあきらめい」
「あきらめれるかー!!」

 高々とこだます声を聞いて、あの狂人が喜び勇んで走ってくるのは、それほど時間がかからなかった。





















「あやつを、人間にしてやってくれ」


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