針が動く



 リング争奪戦から、一年が過ぎた。
 言葉に出来ないほど色々あったけど、結局人間は簡単に変わらなかった。
 制約の首輪をつけられ、ヴァリアーは削られたものの、幹部はそのまんま、汚れ仕事もそのまんま、そりゃ、少しは大人しくなったと言われればそうだろう。
 ただ、俺が感じた中で変わったと言えば、ひどい怪我するとベルのやつとマーモンのやつが目をむいて俺を叱ることだ。ルッスはいつものことだから驚かなかったが、あの3人に同時にぎゃんぎゃん言われるとさすがの俺も頭を下げるしかない。ガキと女(?)には勝てない。
 前はただバカにするだけだったくせに何が起きたのか。
 ルッスの「失ってから初めて気づくものよ」とかいうむかつく言葉の意味はわかんねえ。
 そんでもって、よく笑うようになったと思う。
 皮肉気か、斜めに見るような笑い方が、少し、ガキらしく見えた。まあ、ガキだから当たり前っていや、当たり前なんだけど。
 後、変わったとすれば……。




























「ん……」

 鼻から抜けるような声を思わず漏らしてしまった。
 口の中では舌を追い詰めるように相手の舌が絡められ、逃げれば強く髪を引かれ絡め返されるように命令される。
 相手の唾液と自分の唾液がすっかり混ざってよくわからなくなっていく。
 一度、酸素を吸うために離れた唇は、またすぐ重なり舌が進入してくる。
 拒むことも、逃げることも許さない激しさに目を閉じれば、髪を掴んだ指が顎を撫でた。
 絡み合う舌は、体温すら混ぜていく。

「ぼ、すぅ……あのよぉ……俺、そろそろ……」

 唇を離された隙に紡ごうとした言葉はまた唇で塞がれる。
 舌を軽く噛まれ震えながらも身を任せた。
 もう少しだけ。
 心の中で呟いて受け入れる。
 一分か、はたまた1時間か、唇が再び離れ、目があった。
 赤い瞳を見据えながら、先手を打って唇を押さえる。

「ボス、わかってんだろ……今日から長期の仕事なんだからよお……そろそろ……」

 不機嫌そうに眉根にしわが寄った。
 けれど、ボスは俺の髪をいじるだけでそれ以上はしない。
 そう、一番変わったとすれば、この男だ。
 妙にいらいらすることや、八つ当たりのように暴れること、俺を無意味に殴ることがなくなった。
 相変わらず、なにかやらかしたら殴られるけれど、その回数さえぐっと減った。
 ふっきれたんだと、思う。
 あの日本のガキに負けて、やっと、ボスの怒りの決着がついたのだと。9代目ときっちりつけられたなかった決着をつけた。怒りの行き場ができた。だから。

「余計なこと考えんな」

 ぐいっと、強く髪を引かれ、もう一度口付けられた。
 今度は舌の入らない短い触れるだけのもの。



「あれから、一年だなあ」



 俺が呟くと、ボスはますます不機嫌そうに顔をゆがめた。
 まあ、あんまりいい記憶じゃねえから当たり前だけど。

「それがどうした」
「結局、何もかわらねえ」
「当たり前だ」

 今度は、俺から触れるだけのキス。
 そこから、ボスはまた唇を近づけてきたけど、少し顔を引く。

「ボス、XANXUS、心配すんなあ」

 にやっと、笑って呟いた。

「きちんと無事に帰ってきてやる」
「お前の心配なんてしてねえよ」
「だろうなあ」

 ボスの指から髪を救出する。

「だから」

 そして、少し距離をとって笑った。
 








「俺をもっと、もっと信用しろよお、一年前みてえに無様に死んだりしねえ」
 









 跪きはしない。
 ただ、しっかりと瞳を見据えた。



「今の俺は、てめえの隣に立つにふさわしいぜえ」



 あの頃のように、肩を並べ、立つにふさわしいと。
 そう、俺もあのときの敗北を経験してふっきれた。人間がそう簡単に変わるわけねえから、完全にじゃねえけど、こんな戯言が吐けるくらいには。
 ボスは、しばらく、俺を見ていた。
 目をそらしはしない。
 それが、今の忠誠の証。

「……とっとと行け」
「へいへい、いい子で待っとけよお。ボスさん」

 背を向ける。
 そのまま扉に手をかけて、背後で笑う気配を感じた。
 一年ぶりの笑顔だ。
 俺は決して振返らない。
 ちーっと1年ぶりの笑顔を見れないのは勿体無いけれど、笑った事実だけで十分で。
 俺は扉をくぐりぬけ、歩き出す。





























 止まっていた時間が、動きだした気分だった。


 一周年ということで、1年後というのを想定して書いてみました。
 リハビリも終って、ヴァリアーは再始動し始めたというイメージ。
 思ったよりも微妙なデキのくせにキスシーンだけちょっと描写がいいのは別館のせいです、すみません。
 たぶん、誰もいらないと思いますがフリーです……。
 1周年、皆様本当にありがとうございます!!  テュスクかけなかった……orz
 




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