信頼



 スクアーロは無意識にルッスーリアに頼る時がある。
 本人は無自覚だろうし、もしも言ったとしても断固拒否するだろうが、スクアーロはルッスーリアに信じられないことに甘えてるんだ。
 それはルッスーリアの妙な女性的の包容力と雰囲気のせいだけじゃ絶対無い。
 なんとなく俺にはわかった。
 あれは兄(もしかしたら姉かもしれない)相手に贈る最大級の信頼と甘えなんだ。
 兄を殺した俺としてはまったくもって信じられないけどね。
 だけど、何と言っても、あのスクアーロがルッスーリアの作った食べ物だけは毒見もためらいもなく口に放り込むし(俺がやったクッキーは水槽の熱帯魚に味見させてた)ルッスーリアの前でだけ寝るし(俺が近寄ると気配でおきるけど)ルッスーリアの言うことだけは文句を言っても一度で聞く(俺なんか10回言っても聞いてもらえない)し、ルッスーリアに触られても怒らないし(この前髪を触ったらすごく怒った)ルッスーリアにだけは私的な頼みごとをしたりもする。
 もしかしたら、地球上で自分を裏切らないのはルッスーリアだけだと思っているんだろうか。
 まあ、ルッスーリアもそれがまんざらではないようで簡単にそれに答えてる。
 俺達と一緒にいる時はぎすぎすしたスクアーロが、ルッスーリアの前だけでは妙に穏やかなのは気に入らなかった。

「ベル、せっかく作ったゼリーをぐずぐずにしないでちょうだい」

 ぼんやり考えているといつのまにか目の前にルッスーリアがいた。
 ついでに俺の前にはゼリーも置かれている。
 いや、いつのまにかじゃない。
 俺がルッスーリアの前に座ってたんだ。
 たまたまマーモンのところへ遊びにきたらルッスーリアがいて、おやつにゼリーを食べていたから分けてもらってたんだ。
 そう思い出しながら俺はなんとなく食べるのに飽きてしまったルッスーリアの手作りらしいそのオレンジのゼリーを潰していた。

「ベル、汚い」

 隣でマーモンが俺とは対照的にきれいにゼリーをたいらげていた。
 食べないなら食べないでいいけど、潰すのはやめてほしいわっとルッスーリアが呟く。 俺がスプーンを放り出すと、どかどかと乱暴な足音が聞こえた。
 そんな足音を立てるの奴を俺もマーモンもルッスーリアも一人しか知らない。

「あら、スクアーロ」

 振り返りもせずルッスーリアは扉を乱暴に開けたスクアーロに呼びかけた。
 ルッスーリアじゃなくてもそれがスクアーロとはわかる訳なのだが、その慣れたいい方には経験を感じる。
 スクアーロは相変わらずうるさい足音でこちらに大股に近づいてきた。
 その手には書類を持って、きょろきょろ辺りを見回すことから誰か探しているらしい。

「う゛お゛ぉい!! ずいぶん優雅にすごしてやがるなあ!!」
「仕事が終わったもの」
「今日は非番だからね」
「うしし、だって俺王子だもん」
「最後の意味がわからねえぞぉ!」
 
 大口を開けたスクアーロの目の前に、ルッスーリアが自然な動きでスプーンを差し出した。
 スクアーロは、じろりとルッスーリアを睨む。
 ルッスーリアは睨まれてもにこりと笑った。
 一瞬の沈黙。
 私が作ったのよっとそのまま呟くと、スクアーロはためらいもせずぱくりっとスプーンを咥える。
 不思議な光景だった。
 スクアーロは何事もなかったかのようにスプーンを唇から離すと、探している部下だろう知らない名前を聞いた。
 スプーンの上のゼリーは当然ながらない。
 ルッスーリアがわからないわと答えると不機嫌そうに踵を返して出ていった。
 俺とマーモンはそれを呆然と見守るしかない。
 ルッスーリア何事もなかったかのように残ったゼリーを食べていた。

「ベル、あなたもう食べないの?」

 俺は胸焼けしそうだとうんざり答えた。



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