Buon Nataleの言葉もなく、ツリーもプレゼントもケーキもないその日。
ただ、大人たちが忙しく走りまわるのを見ていた。
ルッスーリアはなんだかすげえ忙しいとかで朝から俺に謝ってたし、久々に俺に顔を見せた師匠はその次の瞬間、5,6人の大人に捕まって運ばれていった。
めちゃくちゃ抵抗して20人くらい気絶させてたけど「ドン・ボンゴレの命です」で急にまじめな顔になって行っちまった。
後でルッスーリアが気絶した人見て「ただでさえ忙しいのに!!」と悲鳴をあげる。
俺は、ただじっとそれを見てた。
話を聞くに、なんだかでっかいパーティーがあるらしい。
「ルッスーリア、私はスクアーロと過ごしたいんだが」
「すみません、テュール様、寝言は寝てから言っていただきたいんです。とりあえず忙しいので早く着替えてください」
「……寝言じゃないとしたら?」
「ドン・ボンゴレの勅命です」
「仮病と伝えてくれ」
「Dr.シャマルがMr.沢田のお付できてる筈ですから見てもらってください。
ただし、衝動に任せて追い掛け回してはだめですよ。一応公式の場ですから、終わったら好きにしてください」
そんな何回目だかわからない師匠とルッスーリアのやり取りを見ながら、俺は立ち上がった。
どうも、今日のパーティーはそれなりの地位がないと出れないパーティーらしいので、俺は参加できないらしい。
師匠は無理矢理連れていきたいらしいけど、なんかそんな堅苦しいパーティーなんかに出たくない。
廊下を歩けばいつも怖い顔の大人も焦ってる。
ヴァリアーの人員まで使わなきゃいけないようなパーティーってどんだけでかいんだとか考えて、すげえでかいんだろうとしか思えなかった。
去年のパーティーもそれなりにでかかったらしいけど、これほどではなかったとか。
ボンゴレのお祭り好きにも困ったわと苦笑するルッスーリアはそれでもどこか楽しそうだった。
俺は廊下の先、一つの部屋の扉に手をかける。
鍵のかかってない部屋の扉はなんなく開く。
「おーい」
中は真っ暗だった。
カーテンも締め切られ、光を一切拒絶し、誰も居ないような静かな部屋。
そこに、俺だけの声が響く。
当然、返事はない。
「おーい」
それでも俺は一歩踏み込んで、呼んだ。
どうせ返事はないだろうが、一応声をかけておかなければいけない。
ぼんやり闇に目が馴染めば、そこに浮かぶ赤。
その赤に近づく。
「おーい、御曹司」
返事はない。
俺がそのまま近づいていっても何も言わない。
ただ、一対の赤だけが俺を睨んでいた。
殺気ががんがん突き刺さる。
無言ででていけと行ってるみたいだけど、そんなことはどうでもいい。
「ルッスが探してたぞ」
返事はない。
「てめえもパーティーでんだろ?」
殺気がひどくなった。
「こんなとこで隠れてても、しゃーねーだろ?」
殴られるかと思えば、殴られなかった。
俺を見ていた赤い瞳がそらされて、どうにも拗ねたように俯く。
「逃げて、どうすんだよ」
ぴくりっと赤がまたこちらを睨む。
どういう意味だとでもいうように強烈な殺気が向かってきた。
「逃げてんだろ」
赤の位置が急に高くなる。
つっても俺よりは低い。
ぼんやり慣れて来た視界は御曹司の輪郭を描いた。
そこに、御曹司が立っている。
不確かだが、拳を固めて。
「てめえがあの人に会いたくねえから逃げてんだろ」
一撃は、速かった。
でも、それはいつもより力が入っていない。
油断していた俺が倒れないほど弱い一撃。
それでも、痛い。
「俺が、逃げてるだと?」
「そうだろうがあ」
痛む頬を抑えて言えば、もう一撃今度は逆からくる。
俺よりも長いこと闇の中にいたせいで狙いだけは正確だった。
「俺は、」
「逃げてんだろ」
御曹司が言葉を口にするより先に俺は言う。
逃げてる。
そう、逃げてる。
「逃げてねえならなんでここにいんだよ」
反論の言葉はない。
ただ、拳がもう一度。
それも、弱い。
「たく、うだうだ拗ねやがっててめえいくつだ! ガキか!?
ああ、ガキだったなあ!! じゃあ拗ねとけよ!! この暗い部屋でうだうだうだうだなあ!!」
さすがに、3回食らえば足がもつれてこける。
追い討ちのように踏んづけられて肺から空気を絞りとられた。
ああ、ちくしょう、めちゃくちゃいてえ。
それでも、睨み付けてやる。
この暗い部屋で睨み付けて見えてるのかはわからない。
そしたら、次の一撃はこなくて。
「逃げてねえなら、拗ねてねえなら、行ってこいよ。ルッスが探してる」
なんだか、御曹司は一度目を閉じて、ふらりっと俺から目をそらした。
立ち上がったら、頭が揺れる。
呼吸がうまくできない。
御曹司は俺を一度も見ずに扉へと歩いていく。
「ルッスのとこ行くのかあ?」
返事もなく、振り返らない。
俺が後ろに立っても何も言わなかった。
ただ、廊下をずんずんと、まっすぐ歩いていく。
「がんばれよお」
たぶん、その声は聞こえなかっただろう。
帰ってきた御曹司とルッスーリアと、師匠は三者三様だった。
御曹司はひたすら不機嫌で、帰ってきた瞬間俺を殴りやがって、しかも何も言わず部屋に帰っていきやがった。
ルッスーリアは顔に笑顔を貼り付けたまま真っ青になって、それでも俺にプレゼントをくれたけど、倒れた。
師匠は、俺を抱き上げて振り回して俺にレゼントをくれたけど、開ける前になぜかルッスーリアに取り上げられて怒ってた。
「なあ、ルッス」
「な、なあに?」
その後で、なんとか立ちあがったルッスーリアに俺は声をかけた。
「あのよお……」
妙に、恥ずかしい。
そう思った。
なんでだかはわからない。
別に、恥ずかしがることでもなんでもないのに。
ああ、ちくしょう。
だから、ルッスーリアにかがんでもらって、その耳元で囁く。
「あら」
ルッスーリアは疲れた顔に本当の笑顔を浮かべた。
「それは、とてもいいことだわ」
さて、誰が知るだろうか。
朝の陽射しの中、目覚めた赤い瞳の少年が起き上がるとそこに見慣れぬものがあったことを。
それは、小さな。1カットほどのケーキ。
切り株に似たブッシュドノエル。
誰が作ったのか、誰が置いたのか。
さて、誰が知っているだろうか。
御曹司はそれを無作法に手づかみにすると、少しだけ考えて口にいれた。
その味がどんなものだったか、誰か知っているだろうか。
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