スクアーロは子供に優しい。
甘いのではなく、優しいと僕は思う。
それは、子供好きとは違って、子供と見れば誰にでも優しい訳じゃない。
基準はよくわからないけれど、とにかく、優しい。
その優しさを受けていると、見ていると、僕は泣きたくなってしまう時がある。
「スクアーロは?」
「またやってるよ」
血の匂いの中、ベルは少し向こうを指差した。
人を殺した後のベルはいつもご機嫌だけど、今日は不機嫌そうに唇を尖らせている。
きっと、思ったより殺せなかったんだろう。
僕は指差された方を見た。
そこには、スクアーロがいる。
少し遠くで、銀色のスクアーロが黒くて赤い子供を抱きかかえていた。
自慢の銀髪が明らかにスクアーロの血じゃない赤に染まっている。
スクアーロの顔はよく見えなかった。
名前は忘れたけど、確か抱えてる子供は最近入隊した奴だったと思う。
なぜかスクアーロに懐いてて、髪を伸ばしてる変な奴だった。
子供だった死体を地面に横たわらせ、スクアーロはいつものアレをする。
顔の血をぬぐってやり、そうっとその額にまるで寝る前のキスのように唇を落とすのだ。
「buona notto」
たった、それだけ。
それだけの優しい行為。
スクアーロはソレを子供にしかやらない。
大人は普通に斬り捨てるし、特別なことはしなけど、子供にだけはそうやって優しくする。
それは味方だけじゃなくて、敵にもそうだ。
子供を殺さないなんて甘いことをスクアーロは一切言わないしやらないけど、ただ、相手が子供だった時スクアーロはまるでそれが礼儀のように一瞬で、苦しまないように殺してやるのだ。
ベルのように無駄にいたぶったりせずに眠っているようなきれいな死体にしてしまう。
そして、時折時間があればその見開いた目を閉じさせて声をかけてやる。
僕はそれをとても優しいと思う。
ルッスーリアであれば死体にも興味を持つかもしれないが、僕らは死んでしまった人間に興味は一切ない。
死んでしまえば全部物。
それなのに、スクアーロは物として決して見ない。
ルッスーリアはそれを、きっと過去の自分と重ねているのだろうと言う。
親に捨てられたスクアーロ。
そして、マフィアに拾われ、育てられた。
多少の違いはあれ、こんなところにいる子供は皆そんな境遇だろう。
「スクアーロ」
僕が呼ぶとスクアーロはやっと死体から目をそらす。
僕はそれにほっとして駆け寄るのだ。
ベルはやっぱり不機嫌そうにスクアーロを見ている。
「終わったかあ?」
「うん、そっち、損害は」
「3人死んだ」
「ソレはその一人」
「おう」
スクアーロは僕を抱き上げた。
いつもならばさらさらの髪が、今は血にまみれて固まっている。
「帰ろ、スクアーロ」
僕は血の匂いのする服にしがみつく。
きっと、これは敵の返り血じゃない。
これは、きっと、死体の血。
「帰ろ」
「そうだな」
スクアーロは子供に優しい。
だから、僕にも優しい。
「僕、疲れたよ、帰ったら寝るね」
「おっいいな、俺も寝るかあ」
「一緒に寝る?」
「俺はボスに報告行ってからだあ」
「……じゃあ、待ってる」
「時間かかるぞお?」
「いいよ、それくらい待てるし」
だから、僕は、もう少し子供でいたいと思う。
でも、同時に早く大人になりたいとも思ってしまう。
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