スクアーロと俺が会ったのは、まだスクアーロが髪を切る前だった。
さらさらのストレートで、風にそれが靡くのが、光を受けてその銀が輝くのがすごくキレイだと俺は心底感動したものだ。
なんたって俺の髪は嫌いではないがあちらこちらにぴんぴんはねて、ぼさぼさ。一度ついた寝癖はシャワーを浴びないととれないし、ワックスをつけてもまったくおとなしくならない所有者とは真逆の頑固者だった。
何を食べればあれだけ根性だとか性格だとかと反してキレイでまっすぐになれるのだろうか。
いつもすれ違う度、遠くから見る度そう思っていた。
まだ、その頃スクアーロはまだスクアーロと呼ばれておらず、優等生だけど群衆に埋没していて、俺は群集から浮き上がる程へなちょこだった頃。
声をかけたことはおろか、名前すら知らなかったというのに俺はスクアーロに惹かれていたのかもしれない。
それから、スクアーロが髪を切ったのはそう遠くない頃だった。
髪を切る前よりも瞳をぎらぎらさせたスクアーロは血に飢えた鮫のようになってどんどん名のある剣士に喧嘩を売り始めた。
最初は無謀だと誰もが言っていたが気づけばスクアーロはスクアーロの称号を手に入れ有名になってしまっていた。
その頃、俺とスクアーロはなぜか知り合った。
きっかけは覚えていない。
ただ、そう、すごくたまに隣にいたり、声をかけたり話をしたり、見ていればそちらも見ていることがあっただけ。
それでも、なぜかひどく落ち着いた。
スクアーロを遠くに見ているとひどく不安でざわざわして怖いのだが、隣にいる時は安心する。
ただ、安心しすぎていつも緩んでいる気が更にゆるむのだけが問題だった。
気分がだれてしまい、口も滑る。
スクアーロが聞いてもいないのにただただ俺は喋り捲った。何が好きか、嫌いか、どう思うのか、その日の天気が、授業が、先生が、家族が友人が、その日の昼ご飯は、晩御飯は、口が紡ぐままに言葉は溢れた。
「俺さ、白が好き、スクアーロの髪みたいな白い花がさー、わーってあったらよくない?」
「俺の髪は銀だぁ!!」
その上、いつものどじが更にグレードアップし、回数も多くなる。
その度スクアーロは嘲るような表情でひどいことを言った。
俺はそれに傷つくのだが、無神経なスクアーロはまったく気にしない。
しかし、スクアーロは変なところで世話焼きでどじをする度、妙に世話を焼いた。
こければおこしてくれるし、落ちそうになれば捕まえてくれるし、食べこぼしをすればさっさと拭いてくれる。
それは本当に意外なことで、特に最後は硬直してしまった。
スクアーロにとってはなんでもないことなのだろう。
俺が何か言いたげな顔をしても一切意に介さない。
一度、遠まわしにいってみれば
「ああ、世話してたガキがいた」
と特別なんでもない風に言う。
むしろ、その世話をしていた相手の方がまだ世話がかからないとも付け足した。
そこで、はたっと気づいた。
俺はスクアーロにべらべらと自分のことを語っていたが、俺自身はスクアーロのことをあまり知らないじゃないか。
特に、スクアーロの家族だとか背後だとかなんでこの学校にきたのかとかそういう過去を知らない。
前に子供の世話をしていたというのがはじめて知るスクアーロの過去だった。
過去なんて詮索するものではないが、知りたい。
どうにかして聞いてやろうとかまをかけるものの。
「関係ねえだろぉ」
「知るか」
「忘れたぁ」
と返された。
よくよく考えると当たり前だった。
俺とスクアーロは深い関係でも友人でもない、言うなれば親しい知人でしかない相手になぜ過去を話せるか。
そりゃ、俺のようにちゃらんぽんに生きてきた人間ならばいいかもしれないが、スクアーロはどこか影がある。
時折、遠くを見ては魂が抜けるのだ。
誰を思っているのか、何を考えているのか俺にはわからない。
ただ、すごく悔しかった。
なぜか、見返してやりたいと思った。
いや、それは別に見返してやりたいという気持ちではなかったのだが、それが一番近かったと思う。
それから俺の元へ赤ん坊だけど最強の家庭教師がきたのは数年後のこと。
そして、スクアーロの元へヴァリアーの勧誘がきたのもまた、数年後のことだった。
ボス候補からボスになった俺がなった時、いつかもらした好きな花が籠いっぱい無記名で届いた。
色は白。
俺はその時、もしかして、と思てしまう。
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