子供には添い寝を



 マーモンは、赤ん坊であるが一人で眠ることができた。
 子供用の少し小さなベットだったが、マーモンの体には大きすぎるそのベットで一人で眠ることができる。
 同僚のルッスーリアが「ベビーベットの方がいい?」と言ってきたことがあったが、体はともかく、精神はその辺りの大人よりも成熟したマーモンは断った。
 マーモンよりも年上の子供のように闇が怖いとも思わないし、寂しいとも思わない。
 むしろ、闇は心地よく、自分を包み、一人は気楽さを与えてくれる。
 特殊な立場であるマーモンは誰かと共にいるのは嫌いではなかったが、煩わしさを感じていた。

「……?」

 こちらに近づいてくる人の気配にマーモンは起き上がった。
 重くなっていた瞼を持ち上げ、耳を済ませばどかどかとうるさい音。
 こんな音を立てて歩く人物をマーモンは一人しか知らない。
 マーモンは近くにおいてあったフードをとると目深に被る。
 音はどんどんこちらに近づき、そして、扉の前でとまった。

「開いてるよ」

 そう、マーモンは相手に呼びかけたが、呼びかけよりも早く扉は開かれ、思ったとおりの相手がそこには立っていた。
 逆光で顔は見えないが、その長身と長い髪を見ればわかる。
 同僚であるスクアーロだった。

「何?」
「寝てたのかぁ?」

 いつもの制服とは違うラフな服装だということから、仕事の用事ではないだろう。
 マーモンは起き上がってベットの端に腰掛けた。
 長い銀髪を揺らし、大股で近づいてくるとひょいっと抱き上げられた。 
 そのあまりにも唐突な行動にマーモンは少し顔を歪める。
 しかし、鈍感でフードのせいで顔が見えないスクアーロは特別気にせずベットに座った。

「ちっちぇえベットだな」
「僕には大きいくらいだよ」

 だろうなぁっと言いながらスクアーロはべろんっとフードをめくった。
 これにはさすがのマーモンも驚いた瞬間、その額に唇が押し当てられる。
 見かけからは想像できない、柔らかい感触。
 受けたことのないくすぐったさにマーモンが身をよじった。
 すると、簡単に唇は遠のいていく。
 唇に触れた場所が妙にくすぐったい。

「何するの」

 フードを下ろされたマーモンはスクアーロに問い掛けた。
 普通の子供ではない自分にまるで母が与えるようなキスを与えてどうするというのか。
 しかし、スクアーロは質問に答えずシーツをめくるとブーツを脱いだ。 

「よし、寝るぞぉ」
「なんでさ……」

 マーモンにとっては大きいものの、スクアーロには小さいそのベットに寝転がりながら抱きしめるようにマーモンを横に寝かす。
 抱き上げられるとは違う体温が、鼓動が近い。
 長いスクアーロの髪の毛が頬を撫でる。
 マーモンは思わず抵抗した。
 何もかも、知らないことだらけで、与えられたことのないものだらけで、混乱する。
 涙腺が、緩んでしまいそうだった。

「ガキは」

 スクアーロは腕の中にマーモンを閉じ込めながらぽつりと呟いた。

「一人で寝るべきじゃねえんだよ」

 いくらもがいてもその腕が緩むことはないと理解したマーモンは抵抗をやめた。
 ただ、体勢が苦しかったので少し反転すると、スクアーロの髪からシャンプーの匂いを感じる。
 すでに目を閉じてしまったスクアーロに、マーモンは小さな声で呟いた。

「フードくらい、外させて」 

 腕の力が少し緩んだので、マーモンはフードをとると、向き合うような姿勢で目を閉じた。
 その日、夢を見たような気がしたが、きっと気のせいだろうとマーモンは思う。



















「あら、マーモン、昨日はスクアーロと寝たの?
 じゃあ、今日はあたしと寝ましょv」
「……断っておくよ」
「あら、冷たいのね……スクアーロは昔寝てくれたのに……」

 そのせいか、とマーモンは思った。



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