また、会いましたね。
覚えていますか?
覚えていませんか、まあ、嫌なことはすぐ忘れるって言いますしね。
二度と、会わないと思ったんですが。
まったく、どこまでも俺と貴方は縁がある。
本当に、嫌になりますね。
本当に、本当に、嫌だ。
男はニコリと笑った青年の右目を抉った。
年齢よりもずっと若く見えるその顔で、なんでもないかのように笑う。
青年は、その表情があまりにもなんでもなかったせいか、一瞬痛みを忘れた。
そして、一瞬後には激痛の悲鳴をあげることとなる。
視界も、思考も揺れ、自重を失った体が地面に倒れた。
しかし、青年がいくら叫ぼうとも、男はその澄み切った幼ささえある茶色の瞳を向けている。
「貴方は、二番目なんです」
男はきっぱりとそう言うと大事そうに先ほど抉った瞳をもってきた箱の中にいれた。
見る限り普通の箱ではなく、何かしかけがあるようだったが、今の青年にはわからない。
ただ、痛いを通り越し熱い。
まるで焼き鏝をつっこまれたような感覚に狂いそうだった。
それでも、男は一切関知せずに優しく告げる。
「予言します。貴方はこれから4回死にます。
そして、4回目に俺に再び出会うでしょう。その時きっと皆がまた揃って楽しいことが起こりますよ」
くすくすと、その穏やかさのまま笑うと、男は手のひらを広げた。
その手はグローブのようなものに包まれ、素肌は見えない。
一度、拳を握り、もう一度開く。
「たぶん、俺と貴方はそれまで会うことはないでしょうね。
俺はまた日本に帰りますし、それに、俺も年ですから」
男は、その手のひらを青年に向けた。
青年は本能的に危険を察知し、身をよじる。
痛みよりも強い危機感に逃げようとするが体は思うように動かない。 がっと男は青年の足を踏み、逃げられないようにすると、手のひらをゆっくりとその顔に近づける。
青年は当然、手でそれを止めようとするが、一瞬の熱さと肉の焦げる感覚を得た瞬間手を離した。
見れば、男の手のひらからは、正確にはグローブからは赤い炎がゆらめていた。
青年の瞳に焦りが浮かぶ、しかし逃げることはできない。
ただ、目の前に迫ってくる熱さがじりじりと恐怖を増していく。
痛みと恐怖の中、観念したのか、青年は目を閉じる。
闇の中、浮かぶのは、銀。
「大丈夫です。あの子は俺……いや、俺の息子が引き取りますし、それに、ちゃんと次の貴方は用意してありますからすぐに会える筈ですよ」
あの子。
その単語に青年は目を見開いた。
瞳に諦めが消え、代わりに力がこもる。
痛みも忘れたかのようににらみつければ、男の顔が歪んだ。
それは、ひどい苛立ちだった。
穏やかさも何もないただ憎悪を浮かべて手のひらを握るとその頬を殴る。
衝撃で青年の頭は地面にたたきつけられた。
「なんなんだよ、その目は」
むかつくっと、はき捨てる。
じゅっと、青年の顔が焼けた。
それに構わず、男は殴る。
殴り、殴り、殴り、殴り、殴り、叫ぶ。
「まだ大切なものがあるって言うの? 前にも散々奪ってやったのに、壊してやったのに懲りずに、しかもこの状況でそんな生きた目するなんて本当のむかつく。貴方はあいかわらず俺をいらだたせる。
そうだ。前の貴方もぼろぼろにしてやったのに、奪ってやったのに、壊してやったのに、捨ててやったのに俺は貴方が一度死んだくらいじゃすまないくらい貴方が嫌いなのに、憎いのに貴方はちっともわかってない、覚えてない。俺をどこまで追い詰めたいんだ」
青年は何のことだかわからないままに殴られる。
抵抗しようともがく腕は叩き折られ、更に殴られた。
飛び散る血が、視界を赤くする。
「俺が憎い? 殺したい? いいよ、憎めばもっともっと憎めばいいんだ」
そして、動かなくなったのを確認するとほっとため息をついて笑った。
「大丈夫ですよ。何も怖くありません。終わるんじゃないですから、巡るだけですから」
男は、笑って血だらけの拳を開いて、その見るも無残な青年の顔を掴む。
「さようなら」
また会いましょう。
男は、まるですぐにでも会えるような口調で告げる。
(さようなら)
青年の意識は簡単に消えた。
ぴくりとも動かなくなったのを確認すると、そっと男はその手を離し、だらんっと開いた手に指輪を握らせる。
「これは雨のリングです。貴方の大切なあの子へのプレゼント」
独り言のような言葉。
そして、その言葉を言った後、ふっと考えるような顔つきになった。
「うーん……もしかして、これって息子へのプレゼントにもなるのかなー……今ごろどうせ大空のリングを手に入れてる頃だし……」
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