「パパーv」
とろりとした目のスクアーロがそう言いながらテュールの首に腕を絡めた。
その表情は悪意も嫌味もなく、笑っている。
普段ならば絶対に見れない、見せないだろう。
まだ声変わりしたばかりの声は少し高く、甘い響きを伴ってテュールの鼓膜を震わせ脳へと届いた。
「ス……!」
口を開いたテュールが何か言うより早くその両眼から涙がこぼれた。
悲しいのでも痛いのでもない、感涙という名の涙。
周りの面々はその2つの異様な光景に凍りつく。
しかし、それをまったく気にせず、スクアーロは猫のようにテュールの胸に擦り寄った。
その傍にはワインの瓶が転がっている。
スクアーロは、完全に酔っ払っていた。
「……! ルッスーリア!!」
その涙を拭わずテュールは叫んだ。
叫ばれた相手はびくりと震える。
光景の異様さと、テュールの叫びが尋常でないことを感じ取ったからだ。
なんですか?、と控えめに聞き返せばテュールはしっかりとスクアーロの肩を抱き叫ぶ。
「カメラ!! ここにカメラもってこい!! 録画できるやつだ!!」
「え……」
「早く!! 酔いが覚めたらてめえの首を胴とお別れさせるぞ!!」
通常よりも汚い口が本気を告げていた。
ルッスーリアは走り出す。
「ぱぱー、だいすきーv」
「ルッスーリア!! 早く!!」
「はっはあいいぃ!!」
なんとか命がけでカメラを見つけたルッスーリアに、テュールは泣きながら語った。
「ああ、俺はこの日をどれだけ心待ちにしたことか!!」
「ぱぱー」
「思えばそう、あれは雨の日だったな。この子を連れた9代目の奴が俺の義父にならないかと言ってきた。
俺は最初その気はなかったのにこの子のかわいさに思わず即効OK……!!」
明らかに動揺している自分達のボスを見ながら遠巻きの面々はどこか恐ろしくて口を出せない。
その間にもテュールの演説は続く。
「――でだな!! 俺はパパって呼んでほしかったのにこいつは飛び越しやがって俺を師匠と呼ぶようになったんだ!!」
「だいすきー!」
「ルッスーリアァァ!! ちゃんと撮れてるかー!!」
「はっはあいい!!」
この後、ビデオを見てぶち切れたスクアーロはビデオを八つ裂きの後焼却。
その日、涙のごとく大雨が降った。
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