お義父さんと一緒



「シャーマールー!!」

 扉……いや、よく見ると扉の横の壁を蹴り壊し、その黒い姿は現れた。
 顔に鬼のような形相を浮かべ、子供を抱いた黒服の男は中にいた医者をジャンプの勢いそのままで蹴り倒す。
 医者は蹴られた衝撃で吹っ飛び、壁に叩きつけられた。
 黒服の男は軽やかに着地、子供には一切の振動も衝撃も伝えず、叫んだ。

「おおおおおおお俺の息子があああああああ!!」
「落ち着けー!!」

 なんとか立ち上がった医者も叫ぶ。
 鼻と口から少量とは言いがたい出血をもよおしているが、簡単に拭い、距離をとりつつ聞いた。
 黒服の男の状態は明かに錯乱している。
 狂戦士のように顔を歪め、今にも襲い掛かってきそうだった。

「てめえええええいしゃだろー!!」
「あ? なんだ? とにかく落ち着け、ボンゴレから俺の暗殺命令が下ったか? それともあれか、俺がここにいるの聞いて出会い頭の復讐キックか?
 それから、壁からじゃなくて扉から入ってこい、後ちゃんと手を使え」
「後者だあああ!! 後、大事な息子持ってるから扉から入れるか!!」
「むすこ……?」

 医者は記憶を辿る、そういえば以前に会った家光がそんなことを言っていた気がする。
 しかし、男の話はほとんど耳に入らないという特技を持つ医者はその詳細についてまでは思い出せなかった。
 とにかく、じっくり見てみると、男の片方しかない腕には、華奢な子供が抱かれている。
 白い髪に白い肌、瞳は今は苦しげに閉じられているせいでわからない。
 ただ、その白い肌が重病人のように青く、そしてあまりよくない汗をかいていることはすぐにわかった。
 その様子を腕の中で感じ取っているのだろう、少し落ち着いたように見える黒服の男は目を伏せて呟く。

「お前に頼むのは癪で癪で癪でたまらんが、お前以上の名医はいないとわかっている……本当は物凄く嫌で嫌でしかたないが、むしろお前がこの子に触れるんなんて指を切り落としたくなるが、昔お前が俺のスカウトを断ったことが思い出されるが……この子を助けてほしい……」
「……お前……もしかしてそれ頼んでるつもりか……」

 まったく心と体の折り合いがついていない頼み方に医者は頭痛を覚えた。
 しかし、黒服と医者の付き合いは友人と呼べるものではなかったが、知人よりは長い付き合いだった為、真摯な思いは感じ取れる。
 それに、いつも笑みから表情を変えない男が焦っているというのは驚きだった。
 いつもならば、そう、笑みとともに殺気を放ち、決して剣を離さない男。
 それが、今は剣の代わりに子供を抱き、苦しげな瞳で見つめている。  

「お前に頭を下げる日がくるなんて思ってもみなかったが……頼む」

 今まで、医者に命令でもなければ頼らなかった男が、頭を下げる。
 恐らく、今まで男の上司以外に下げたことのない頭だろう。
 もしかしたら、その上司にさえ下げたことがないかもしれない。
 その頭を見ていると、医者は落ち着かない。

「頭、あげろよ」

 男の顔が、晴れた。

「本当は男はみねえんだぞ、俺は」
 
 医者は、頭をかいて子供を受け取った。






















「こりゃ、毒だな……どうしたんだ?」
「……毒殺……」
「んだ? まだお前の命を狙うようなバカが……」
「されると困ると思ったから耐性をつけようと思って……ちょっと……」
「てめえが混入したのかよ!?」
「そしてら……ぐったりしてな……」
「しない方がおかしいだろ!! 何飲ませたんだ!!」
「とりあえず……色々?」
「お前変わってねえ!! 何一つ昔から変わってねえ!!」
「それより、どうなんだ……」
「ああ……まあ、解毒はできた……後は体力次第だろ……にしても……」
「ん?」
「本当にこいつ男がぁっ!!」
「俺の息子にいやらしい手つきで触るな……!!」
「ちょっと確かめるだけだろ!!」
「うるさい……もう大丈夫なら……てめえをかっさばいていいことになるよな……」
「おっおいい!? どこから出したその刀ー!!」
「テュール様、スペルビが――って何病人の横で暴れてるんですかー!?」





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