お義父さんと一緒



 スペルビは雨や海と言った水が好きだった。
 水浴びやシャワーも好きで、日本のバスタブに入る習慣も好きらしい。
 キレイ好きという訳ではない。
 ただ、水が好きなのだ。
 特に雨はスペルビを興奮させ、喜ばせるらしい。
 今、私の目の前で泥だらけになっているのを見ればそれは一目瞭然だった。

「――La♪La♪La♪La♪」

 泥に塗れながらスクアーロは歌う。
 歌詞のないLaという音だけを何度も何度も。
 何の歌なのか私は知らないし、別に知らなくてもいいと思う。
 ただ、無邪気に楽しそうに紡がれるだけの歌でいいのだ。
 意味などなくても、名前などなくても、それが意味となる。
 ぱしゃりっとはねれば、銀の髪に茶色のブチが入った。
 その泥を降りしきる雨が洗い流す。
 それよりも早く、泥がぱしゃりと白い肌を汚した。

「スペルビ」
「……ししょー?」

 呼べば、ぴたりと止まった。
 そして、じっと私を見て、そして自分の姿を見下ろす。
 銀の瞳が揺らいだ。

「あっ……」

 自分の現状を悟った瞳。
 確かに、雨にびしょぬれでその上で泥まみれといえば、良識ある大人ならば眉をしかめるところだろう。
 どころか、短気な人間ならば叱る場面だ。
 しかし、私は笑った。
 安心させるようにそっと近づくと、傘を差し出す。

「大丈夫、スペルビ、私は怒っていない」

 不安げに見上げる銀の瞳。
 それは、ひどく美しいと思った。
 美しいものが汚れるというのは、言い知れぬ快感が伴う。
 それが、これほどまでに純粋で小さな幼い子供ならなお更だ。
 私は頬についた泥を拭う。











 も し も 、 こ れ が 血 で あ れ ば 










「ししょう」

 瞳が、先ほどより怯えていた。
 おかしい、なぜこんなにも怯えているのだろう。
 寒いのか、がたがた震えている。

「こわい」

 なにがだい?
 そう聞けば怯えた瞳のままはっきりと答えた。

「ししょうが、こわい」
「そうかい」

 私はスペルビを抱き上げた。
 スペルビはおそるおそる私を伺っている。
 その頬に軽く口付け、私は笑いなおした。
 きっと、さっきまでの私の笑顔は凄惨なものだっただろう。
 直接見なくてもわかる。
 なぜなら、さっきまでの私の笑みは戦場で出すそれだったからだ。
 落ち着いたスペルビを強く抱きしめて私は歩き出した。

「帰るか、早く帰らなければルッスーリアに怒られる」

 笑いなおした表情に安心したのだろうスペルビはおずおずと私の服を掴む。
 じわりっと水の感触。
 ああ、もしも、この水が、血であったなら。






















 きっと、その血がスペルビのものであってもなくても、美しいだろうに。





















(染めてみたい、ものだ)


パパンは息子ラブで明るくてちょとお茶目な性格だけど、静かに静かに狂っています。
ちなみに、この後、勿論ルッスーリアにびしょぬれになったことを怒られました。




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