不愉快・不痛快な被害者たちの因縁話



「なんで親父とシャマルは一緒に住んでるんだ」
「……なんか、よくわからない大いなる意思とか、ある日目覚めたらテュールに拉致監禁されてたからとか……だろうな」
「俺と一緒かー」
「一緒だな……」

(似たもの同士)


 意外なことに家光とテュールの因縁は長いものだった。
 実を言うと、最愛の息子に出会う前なのはもちろんのこと、テュールがシャマルとの腐れ縁を結ぶ前にまでさかのぼってしまう。まだ、家光の年齢が一桁だった頃、テュールと家光は出会った。
 というよりも、出会わされてしまったに近い。
 そこにあまり偶然の介入はなく、名目上はまだ9代目候補であった男によって出会わされてしまった。

「バカ、お前はバカだ」

 一目見て、家光はそう言った。
 それは本能なのか超直感のなしたことなのかはわからない。
 ただ、家光はとてつもなく、テュールが気に入らなかった。
 幼い家光だったが、今までただ見ただけでこれほどまでに相手を気に入らないことはなかったし、不当に相手を罵ることなどなかったことだというのに。
 しかし、家光の口から飛び出したのはそんな言葉だった。
 人を外見で判断してはいけない。その観点から言えば、家光はまさしくその言葉にのっとっていただろう。なぜなら、テュールをもしも外見だけで判断していれば、とんでもない美しさと完璧さに、頭をたれていたからだ。
 どう考えても、バカなどという言葉は出てこない。
 むしろ、「お前」などという呼び方も出てこないだろう。礼儀を一応はわきまえていた幼い家光は年上には「あなた」と呼んでいたのだから。
 つまり、家光は正当に、テュールを中身で判断してそう言った。
 バカという言葉を選んだのはただボキャブラリーが足りなかっただけだが。

 さて、ここで問題です。
 その当時、まだまだ化け物、人形に近かったテュールが、なんだか人目見て気に入らねえと思った少年にそんな風にいきなり言われたらどうなるでしょうか。
 テュールの導火線は、今も短いが、当時は短いというよりも、削れてるに近かった。



「死ね」



 たった一言とともにテュールは家光になんのためらいもない一撃を繰り出した。
 家光はかろうじで避けた。というよりも、なんとか護衛に助けられた。
 もしかしたら、その護衛は未来の9代目がこうなることをわかってつけられたのかもしれない。
 とにかく、家光は返す刀で切りかかるテュールに動かなければ3回殺されそうになりながら、確信した。

「やっぱり、お前バカだ」

 そうして、因縁は完璧に完成した。
 それは腐れ縁よりもぐずぐずで不愉快な縁。腐れ縁と同じくらい、切れにくい。

(家光とテュールの初対面、家テュになれなかった)


「てめー!! 10代目から離れろ!!」
「やれやれ、まったく君の嵐の守護者は血の気だけは一人前だね。
 これなら私がまた守護者をやった方がいいじゃないかい?」
「んだと!! このジジイ!!」
「ちょっと……ハヤト、落ち着いて! テュールさんはハヤトをあおらないで下さい」
「でっでも、10代目……」
「ほら、弱い上に飢えの言うことも聞けない守護者なんてすぐクビにした方がいいんじゃないかい? 君の命どころか、自分の命すら護れないよ」
「〜〜〜〜〜〜〜!! 果てろ!!」
「だからやめてってば!! 二人とも俺を挟んで戦闘体勢に入るのやめてー!」

「……ハヤト、テュール、お前らケンカすんなよ」

「ん? シャマル」
「んだよ? てめえ、いたのか」
「ツナが困ってるだろ。つーか、テュールはお前なにしにきたんだ……」
「スクアーロに会いにきたに決まってんだろ」
「だったら10代目のとこにこず、そいつんとこいけよ!!」
「だからケンカするなって……」

「……二人とも、俺じゃなくてシャマルの言うことなら、聞くんだね」
「「「!?」」」

(私は、嵐サンド(テュシャマ獄)を全力で応援します。)



「男はみねえんだけどな」

 そう言いながら男は少年の火傷だらけの腕に包帯を手早く巻いていく。
 年よりもがっしりしてはいるが、まだまだ細い腕を見ながらため息。
 これがレディの腕であればどれだけよかったことか。

「だって、俺、あんたより腕のいい医者しらねえからよお」
「……言っとくが、お前があいつの息子じゃなかったら絶対しなかったぞ」

 あいつ、の分に少年の腕は過敏に反応した。
 苦い顔とともに舌打ち。
 
「お前の言うこと聞かないと、俺があいつに掻っ捌かれる」

 火傷がすっかり包帯に埋まり、男は治療の終わりを告げる。
 これがレディなら、ここで口付けの一つもするところだが、残念ながら相手は少年だった。
 ぱっと手を離せば、それは重力にしたがわずまだそこに浮いている。

「言っとくぞ、ガキ共、いくら一人前のつもりでも、あいつからはまだ全然逃げられてないからな」

 二つの鋭い殺気が男を襲う。
 しかし、男は身震い一つせず、おお、怖いと冗談のように呟いた。
 その表情には、まったく恐怖の影もない。

「まっ俺ですら逃げれてないんだ。そう簡単にいくわきゃねえか」

 壁にもたれかかっていた少年の横を通り過ぎ、部屋を出る前に、一度だけ振り返る。
 治療をした少年は赤い瞳で男を睨んでいた。

「お礼くらい言えよ」
 (躾のなってないガキ共だこと)

(どっちにのせるか、かなり迷ってテュルに)
「お前な、もう引退してずいぶん経ってるくせにボンゴレ脅したんだって?」
「………」
「まあ、まだあそこには頭の堅い後30年は絶対に引退しないようなごうつくじじいが詰まってるからな。お前の脅しは効いただろうよ」
「………………」
「なんたって、あの頃のヴァリアーはドン・ボンゴレが温和を唱えれば唱えるほど深く濃い闇だったからな。
 お前の脅しはなによりもやばい。それこそ、ボンゴレ転覆は無理だが、いくつかの同盟ファミリーと切れちまうだろ」
「………黙れ」
「いい年して拗ねるなよ。お前が息子のわがままとツナのおねだりと奈々さんのお願いに勝てるわけないだろ」

 剣帝は、不覚という雰囲気を背負って曖昧に笑った。
 そして、次の瞬間、八つ当たりのように切りかかった

(剣帝にだって弱いものはある)





 銀の子に愛した

「御曹司、救いというものを教えてあげよう。それは私の息子だよ。血の一滴も繋がらぬ、かわいいかわいい私の息子。
 あの子は救いだよ。なんと言ってもあの子は、私が育てたにもかかわらず、奪うのではなく与えるすべを知っているのだから」

 この男の息子に興味がないといえば嘘になった。
 なぜなら、息子のことをその口で語る瞬間だけ、男は剣帝でもなく、化け物でもなく人間の、それも父親の顔で笑うのだ。
 話に聞くだけで、姿も見たこともないし、声も聞いたことはなかった。

「いつか、貴方と息子は出会うだろうね。きっと、運命とはそういう巡り合わせなのだから」

(確実に悲劇を生み出す予言)


「スクアーロ、痛みを覚えておきなさい、忘れたら死んでしまうよから」

 そう言って、元々短い左腕を更に短くした男は笑った。
 なら、てめえは死んでるのか、そう聞きたかった。

(君のために、)


 君が好きだと言ったなら、世界中から集めてもいい。

「おい、私どもは逆らえないのでってお前の部下から頼まれたから止めにきたぞ。
 ダルメシアン100匹集めてどうすんだお前」
「100匹じゃねえ、101匹だぞ」
「よし、落ち着け、グッズ集める程度にしろ」

(だるめしあんかわいい)


 すごくすごく残念なことだ。
 すごくすごく憎らしいことだ。
 しかし、こうなってしまえばしょうがない。
 私は傲慢という左腕をもらおう、だから、お前は鮫という残りを持っていけばいい。
 私は傲慢だけ抱いて、引こうじゃないか。
 これが親離れか。
 父親とは難儀な職業だ。

(パパ、悲しい……)


「スペルビ、黒髪か金髪の男には心を許しちゃいけないよ?」

(パパンの早期教育)


「あの子が一秒でも長生きてしくれれば、と思うがあの子は反抗期だから、私が一秒でも早く死ぬことにしているんだ」

(あの子のいない世界には、1秒もいられない)


「お前の最初の敵は私だろう。そして、最後の敵も私だろう。
 大丈夫、寂しくないように私も死んであげるから。
 かわいい、かわいそうな息子、クソガキ一匹死んだくらいで、狂わなければよかったのに、最初から、会わなければよかったのに」

(ボスが死んで狂ったスクアーロ)


 自分の保護者であり、世話係である青年に抱き上げられたとき、子どもは少し困ったような照れたような表面だけの抵抗を見せた。
 しかし、それでも、笑って見せるほど、青年に抱き上げられるのが好きだった。
 義父に抱き上げられたとき、子どもの抵抗は必死だ。それこそ命がけといってもいい。
 ばたばた暴れ、あたらないパンチとキックを繰り出し、釣れたてのマグロのように跳ね回った。
 しかし、悲しいかな、子どもは逃げる前に力尽き、おとなしく義父の腕の中におさまるしかないのだ。
 だらんっと大人しくなった子どもに、義父はいつもどおりの美麗な笑顔を浮かべ、白い頬同士を擦り付けた。
 子どもはそれを最後に振り絞った力で拒絶したが、それも全て無駄となり、日々、されるがままである。

(だっこも大好き)




 鬼畜剣帝

「さて、また、スクアーロは家出したんだね? ルッス」
「ええ、今回はてこずらせていただきましたわ、3日も逃げ切るなんて」
「私が言ってもあの子は聞いてくれないからね。しょうがない、ルッスーリア、そこにたってもらえるかな?」
「はい、テュール様、あなたの望むままに、ただ、一つだけ言ってもよろしいですか?」
「なんだい?」
「貴方様は本当に、人の気持ちはわからないのに、人の気持ちの知識はあるんですね。貴方様がこれからすることをすれば、あの子の家ではとまるかもしれません。ですが、嫌われますよ」
「それは困ったね」
「困った顔、していませんわ」
「困った顔は、苦手なんだよ」

 笑って彼は青年の頬を殴った。
 加減されたものではあったが、青年の体はいともたやすく吹っ飛び、床に叩きつけられる。

「さて、スペルビ、そこにいるなら見ていなさい。これからお前のせいでルッスーリアがどうなるか。そして、次に家出したらどうなるか、知りなさい」

 扉の前で震える少年は、立ち尽くすことしかできなかった。

(テュールとルッスとスクアーロ、外道躾)


「ししょー」
「なんだい、スペルビ」
「ゴーラはどこいったんだあ?」
「ああ、修理中だよ」
「修理?」
「ああ、ちょっと、気に入らない御曹司がいてね、ゴーラの中に閉じ込めたらゴーラがガメラのごとく火を噴いてくるくる回りながら飛び始めたので、しばらくおもしろくて見てたんだが、飽きたんで串刺しにしたら壊れてしまって」
「………」
「ゴーラは優秀な部下だからね、いないと困るよ」
「中にぶち込まれたやつは?」
「ああ、残念ながら超直感で避けられたよ。ゴーラの内部は大人用だから子どもにはスペースがあってね。うまくいけば事故でなんとかなったのに……まったく、こっちは部下をしばらく失うし、ドン・ボンゴレにはひどく怒られるし、割りにあわない」

(この世でもっとも傲慢)


 シャマルがこの世で怖いものと嫌いなもののランキングをつけるなら、ぶっちぎり一位は剣帝である。
 今日もそのランキングは塗り替えられることなく絶好調に独走中だった。

「この部屋から、出んなよ?」

 美しく笑って呟く背中に、呪詛の言葉すら出なかった。
 それもそのはず、今、シャマルはそれどころではない。この部屋から出るとか逃げるとか、そんなものどうでもよくなるほど、痛かったのだ。
 痛い。痛い。手が、痛い。いや、もう痛みなんて通り越して熱い。転がって悶えたかったがそれもできない。
 恨みがましい目でシャマルは突っ伏した机の上に視線を巡らせた。
 机に張り付いた手、その中心には華奢ながらも頑丈そうなナイフが2本突き立てられ、赤い血を流している。高そうな机が汚れるが、防ぐ手立てをシャマルは持っていない。しかし、医者の目から診れば、それは完璧だった。最小の範囲で、最低限の血管しか傷つけず、最大の痛みと役割をもたらす。
 勿論、これをやったのは剣帝だ。
 なんたる悪夢か。もう悲鳴も出ないシャマルは足をばたばた動かしたが、振動でナイフが揺れて痛くなったのでやめた。
 人を引き止めるにしても、もっと他に方法があるだろうに、その方法をいくらでも、それこそ、シャマルならばただ声をかけるだけでそれが真剣な話ならば聞き入れたというのに。
 あえて、剣帝はこの方法をとった。
 そこにはなんの感情も見出さず、自然に、まるで相手の手と自分の手を重ねるかのように軽くやってみせた。シャマルが悲鳴をあげた瞬間にのみ、楽しそうに笑ったが、以降は特別なんでもないかのようにさっと部屋を出て行ってしまった。
 部屋の外で何が行われているかは知らないし、シャマルは痛みに考えることすらできない。もしかして、このまま一生貼り付けというのも、剣帝を知っている身からすればありえる。
 ただ、今、シャマルの一番の悩みというのは、剣帝がうっかり自分を忘れて家に帰らないかということだ。剣帝は、どうにもこうにも執着心が薄い。ゆえに、忘れっぽいのだ。
 そろそろ出血のせいか手が冷たく、そして意識が薄れてきた。
 このまま何時間か放置されても死なないだろうが、両手が使い物にならなくなるのは目に見えていた。
 感覚がなくなってきたせいか冷静になってきた頭で時計を見やる。もう、あれから23分。
 血は止まり、乾いてきていた。

「……絶対忘れてやがる……」


 お前が片腕で本当によかった。
 片腕でさえそれだけ貪欲に掴み、抱えているのだから。
 両腕だったらどうなっていたことか。


 テュールの右腕にはスクアーロを抱えている。
 おかげでシャマルを取りこぼした。

「まあ、シャマルは蹴っていきゃいいんじゃね?」

 本当にしそうだよ!!

(本当にするよ?)


 息子の首があまりにも華奢で白く美しいものだから。
 私はそっと指を絡ませて絞めてみた。
 不可抗力ゆえに、かなり本気めに絞めたら首の骨を折りかけてしまし、その上3日は残る手痕を残してしまった。
 言い訳しても許してもらえず、1週間、面会謝絶を言いつけられて、もう4日。
 どうも私はあまり反省してなかったようで、今、血まみれの息子を見下ろしている。
 さあ、どうしたものか。
 笑っていたら、部下が泣き出した。

(アンタって人は……)







 ほのぼのになりそこねた

「シャマル、料理つくれるんだなあ」
「まあ、ある程度は、お前もテュールも作れるだろ」
「作れるけどよお……」
「イイ男は女を喜ばすためにうまい料理を作れるもんだ」

 さあ、できたとシャマルは言って用意された皿に料理をもりつける。
 彩りのハーブを載せれば、よしっと呟いた。

「つーか、息子が手伝ってるのにお前は座ってるだけかよ」

 愚痴りながらも椅子に座る。
 それを彼は笑って流した。
 それを見て、シャマルは「お前が手伝ったら逆に気持ち悪いけどな」っとうめく。
 スクアーロも賛同するように何度も頷くと椅子に座った。
 いただきますよりも先に彼がフォークを握るのを、シャマルとスクアーロは呆れたように見る。
 が、今更注意するような無駄なことはしない。
 きちんと二人は食事の前の挨拶をすると料理に手を伸ばした。

「で、いきなり俺を呼んで、呼んでおいて料理作らせた理由は」

 最初の一口を飲み込んだシャマルがそう聞くと、彼は先ほどと変わらぬ笑みでさらりと答えた。

「ああ、鬼畜がだめならほのぼの路線はどうだろうかと作者がな」
「……諦めた方がいいんじゃないか、そりゃ」
「俺もそう思うぜえ」

(無理無理)


「親父ー」
「なんだい?」
「もしもシャマルが女だったらよー、結婚とかしてたかー」
「そうだね……私としてはまったくもってお断りの上に、職業柄無理だろうけど、ただ――」
「ただ?」
「スクアーロに兄か姉はできてると思うよ」
「……えげつねえ」

(ヤることはヤってるからね!)


 ふと、暇だったので遺書を書いてみた。
 書くことがなく、半分以上が奴への悪口になったのでビリビリに破った。

「と言う訳で、スクアーロ、遺書を書く時は気をつけるんだよ、半分以上が誰かへの悪口なんて、ラブレターみたいなものだからね」

 そう、父親が言うものだから、遺書を書いてみた。
 書くことがなく、半分以上があいつへの悪口になったんで、びりびりに破って捨てた。



 悪口だろうがなんだろうが、そんな死の直前に書く手紙が、半分以上が相手で占められているならば、その相手に心の半分以上を持っていかれているということだ。
 なんて凶暴な愛の言葉だろうか。
 そんなもの、ラブレターでしかありえないだろう。
 世界一非ロマンチックなラブレターだこと。

(重いラブレター)


「おーい、シャマルー、俺とお前と奈々とテュールでWデートすかー」
「どう考えてそれがWデートになるのか教えてくれないか……家光」

(どんな組合せ?)


 死ぬほど、見ちゃいけないものを見た気がした。

「……おい、テュールの息子、逃げんな、こいつに用事だろ」
「……黙って見逃せえ、目が腐る」
「そりゃ俺も同感だけどな、お前じゃないと俺が殺される」
「別に俺の用事は急ぎじゃねえ……目を腐らしてまでやるかあ」
「お前テュールの息子だろうが、親父の責任くらいとれよ」
「血は繋がってねえ! 後、俺には名前があんだよ!」
「お前の名前呼ぶとテュールがキレんだよ。本当にめんどくさい奴……」
「つーか、親父……」

 直視したくないのを我慢し、見る。

「おきてるだろ」
「………ぐーぐーぐー」
「口で言うんじゃない! 起きてんなら俺の膝を解放しろ!!」

 ああ、なんで俺は親父とシャマルの膝枕なんざ見なければいけねんだ。

(気まずい)


 朝起きると、シャマルが親父に踏まれてた。
 親父はおそらくシャマルがいれたであろうコーヒーを飲みながら、優雅に笑う。
 そんな朝の光景にも慣れきった俺は、助けを求めるシャマルの目を無視。
 俺は俺の上司の暴力だけで精一杯だ。
 コーヒーポッドに余ったコーヒーをカップに注いでいれば、親父が楽しそうにシャマルを追いかけている。
 部屋のものを壊されると困るので、シャマルを外にけりだした。

(嘘家族三人、嘘過ぎる)




 名前がつけられない

 あの男は神になる為に生まれてきたのだろう。
 その為にあんな不似合いで不釣合いで最もふさわしい名をつけられた。
 だけれども、男は神になるのをあっさり諦めてしまった。
 あっさり諦めて、父親になってしまった。
 そういう男だった。
 だから、神になれそうだったのだろう。

(剣帝について)


「なぜ、俺は一振りの剣に生まれなかったのだろうか。
 俺は一振りの剣でよかった。人間などに生まれたくなかった。何の感情もない一振りの剣であれば、ただ物言わぬ人を殺すためだけの剣でよかった。
 血と脂にまみれ、それでも人を殺す刃でありたかった」

 ぼろぼろと黒い瞳から透明な雫を零し、彼は言うのだ。

「悲しい、哀しい、悔しい、口惜しい」

 そして、その日も一振りの剣のごとく人を殺すのだ。

(感情のあるテュールを書こうとして失敗)


「スクアーロ、できれば慌ててホシインダケド、パパ人間じゃなかったんだ」
「まじかあ、知ってたぜえ」
「ああ、やっぱり驚かないんだね」
「当たり前だあ。てめえがマトモな人間だった方がびっくりするだろ、普通よお」
「……じゃあ、驚かないで聞くんだよ、スクアーロも実は人間じゃないんだ」
「へえ………」
「うん、これは本当」
「へえ………」

 …………。

「って! う゛お゛ぉぉぉぃ!? どういうことだあ!!」

(こういうパラレルを考えてた。
 テュル・吸血鬼、スク・狼男、そして、ボスがスクを飼うというようなストーリー)


「久々に帰ってきたら、スクアーロいないし、お義父様寝てるし、王子最悪ー!」
「ベル、暴れないでよ……どうせあの人が寝てるうちに家出でもしたんでしょ?
 そのうちルッスーリアが迎えにいくか、自分で帰ってくるよ」
「ぇー」
「スクアーロがぐずっても、あの人が行けば全部解決だし、そのくらい町名よ、君にも永遠の時間がるんだから」
「つまんないのー」

(微妙に続かない。
 ベルも吸血鬼で、マモはなにやらわからないもの)


 彼の眠りは浅かった。
 理由は簡単で、起きている時すら深遠にいるのだから、それ以上沈むことがなかっただけ。

(深い)
「おーう、帰ったぞー、猫どもいるかー?」

 シャマルが扉を開けたその前に座っていたのは、白い毛並みに黒の瞳の猫だった。
 猫は声もなくシャマルを見上げて、無言で要求「抱き上げろ」
 だから、シャマルはしかたなく抱き上げた。
 不機嫌そうに揺れる尻尾を見て(お前が要求したんだろ)っと、少しむかついたが、いつものこと。
 短いリビングへの廊下を通って扉を開ければ、銀の毛並みに銀の瞳の猫が餌を待っていた。
 2つ猫缶を開けながら、思い出すことは一つ。

(「猫くれ」)

 赤い目の御曹司に、この銀の猫をやるかということだ。
 きっと、白猫はめちゃくちゃ怒るだろう、死ぬかもしれない。
 しかし、逆らえば確実にあの御曹司は自分を殺すだろう。
 憂鬱だ……。

(ありきたり猫パラレル)




 断絶希望の二人組み

「おい、シャマル、俺は最近かわいいと評判らしいぜ」
「何がかわいいだ、怖いいの間違いだろ」
「んだと、俺にだってかわいいところくらいあるぜ」
「どこだよ」
「こちらからお切りくださいが、切れない」

(ちょっときゅんっときた)


 白い髪から赤い血が滴る。
 それは白い額を撫でて黒い瞳を伝い頬から首へとゆるゆると落ちていった。
 その血の動きを感じながら、黒い瞳が瞬く。

「ふむ」

 そう、呟いて上半身を起こす。
 体の上には薄くガレキが積もっていたが、軽く払えばそれは落ちていった。
 多少の眩暈と、多少ではすまない程の激痛が体を走ったが、無視。
 四肢が全て動くのを確認し、負傷箇所を確認すると立ち上がった。
 かなり危ない状態だったのに対し、この程度の怪我で済んだことを幸運と思いながら、歩き出す。
 すると、苦い顔の男が物凄く早足に近づいてくるのが見えた。
 笑う。

「このバカ野郎!! 敵ごと自分を吹っ飛ばすやつがどこにいるんだ!! ここどこだと思ってやがる!! 地下だぞ!! 生き埋めになったらどうすんだ!
 いや、むしろそのバカな頭をどっかにぶつけてよけいバカになったらどうすんだ、俺はそれ以上は付き合いきれねえからな!!」
「息子の前だから、かっこつけすぎた」

 あっさりとした答えに、男は顔を苦味から怒りに、怒りから呆れに変え頭をかぶりふった。

「怪我は?」
「山ほど、で、俺のかわいいかわいい息子は無事か?」
「お前に比べりゃ誰だって無事だ……て、指も折れてるだろ、どうやってこれで剣振り回すんだお前は!!」
「くくりつける」
「お前、医者嫌いだろ」
「ああ、目の前の医者とか、俺のかわいいかわいいかわいい息子はどこだ」
「部下に任せた。お前と数人以外は撤退してる、だから」
「ああ」
「気絶しとけ」

 ぱたんっと、剣帝はその黒い瞳をつぶって前に倒れた。

(やっと、気が抜けた)


 朝起きたらテレビが真っ二つになってた。
 買ったばっかなのにどうしてくれんだと文句をつけようと思ったら、部屋の隅で鮫のぬいぐるみいじってたから見なかったことにする。
 奴の息子が学校の寮とやらに入って2ヶ月目。
 そろそろ慣れろといいたい。
 そして、俺の部屋に押しかけるのもやめろ。

(拗ねテュール、八つ当たり)


 今日のお題はロシアンルーレット。
 ただし、普通とはちょっと違う趣向で。
 相手が弾を入れてない数だけ引き金を引く。
 それだけのシンプルなゲーム。
 まずは彼が手にとって、引き金を6回連続で引いた。

「0発」

 そして、貴方に渡される。
 貴方はその銃をそのまま机に置いて笑うのだ。

「6発」
「ああ、またてめえを殺し損ねた」

 なんて滑稽なゲームだこと。

(断絶し損ねた)


 テュールがいきなり俺の目の前から姿を消しやがってから、3年。
 別にそれくらいならどうでもいいが、息子の前からも急に姿を消したということで、俺は死んだんじゃないかとぬか喜びしてしまった。
 なぜかそれがぬか喜びになったかというと、いきなり電話がかかってきたからだ。
 俺はがっくりと肩を落として、奴の変わらぬふてぶてしい声を受話器越しに聞く。
 いわく。

「指定した場所にこい」

 である。
 こいつ変わってねー……。
 そう、電話もそうだが、久々に会ったそいつはあまりにも変わらなかった。
 そう、変わらなかった。
 いや、よく見るとそれは勘違いで、変わっていた。

「……お前、若返ってないか?」
「てめえこそ、老けてるじゃねえか」
「いや、人間は老けるもんなんだよ! 化け物!!」

(衝動で書いた)


 シャマルの性質をテュールを使って実験してみた。
 まず、テュールを箱にいれて張り紙をし、シャマルの通りそうな道においておく。

「……いまさら、驚くことじゃねえが、なにやってんだ?」
「張り紙を見たらわかるだろ、字も読めねえのかド低脳」
「いや、読めるから聞いたんだけどよ……」

[拾ってください]

「拾うか?」
「遠慮しとく」

 っと言って通り過ぎていった。
 実験は失敗かと思わわれた……。
 しかし、テュールを更に5分ほど放置しておくと……。

「拾うのか?」
「…………今日はゴミの日じゃないからな……」

 と言いながら拾って帰ったではないか!!
 なんと、実験は成功したのだ!!

(うまくいった!)



 怖い話


「世界に俺とお前二人っきりだったら、その事実に絶望して自殺するから、実質世界に一人だ」

(絶望で人が殺せる)


「愛に形がないもので俺はよかったと思うね」
「なんでだ?」
「お前に切り刻まれてばらばらにされて中身見られることになるだろうからさ」
「そりゃは納得だな」

(愛の中身ってどんなだろう)


「気づいた、語尾に「にゃ」が足りなかったんだろ!」
「おい、テュール、閃いたみたいな顔すんな。お前が顔に似合わず頭悪いのがバレるぞ」

(うちの剣帝は、賢くない)


 猫が嫌いか? 変なこと聞いてんじゃねえよ、ついに脳がスポンジから空っぽになったのか、そりゃめでたい。
 正直言ってな、俺は猫なんてどうでもいい存在だ。
 別にいてもいいし、いなくてもいい。
 空気より更にどうでもいい存在だ。
 近くにいてもよ、追い払ったりしないけど、抱き上げもしない。
 だから、俺は猫が嫌いなんじゃねえんだよ。
 猫が俺を嫌いなんだ。そもそも、俺に近づく猫はいないし、俺に懐く猫もいない。
 俺に近づくのは人間だけだ。
 犬だって猫だって鳥だって虫だって、俺に近づきやしない。
 賢いよな。
 人間がバカなだけだけどよ。


 学校にいる間は、毎日義父から手紙が届いていた。
 ここの手紙の検閲は厳しく、めったなことで届かないはずの手紙は、いつも俺がいない間に枕もとに置かれてひどく恐ろしかったことを覚えている。
 封が切られてない、切手もあて先もない手紙は、ただの義父の名前だけ書かれていた。
 怖くて内容は見ていない。

 剣の修行に出よう。

 俺は手紙が100を超えかけた時に決意した。

(それはストーカーです)


 師匠の葬式に出た。
 師匠の墓の前で、色々な人が泣くフリをしている。
 特に、へたくそな人は肩が震えていた。
 後で聞いたら、師匠の同僚の人らしい。
 俺は哀しそうな演技の一番うまいルッスに花束を渡された。
 
「パパにあげて」

 ちなみに、次に演技がうまいのはドン・ボンレゴだった。ちんつうなおももちってああいうのを言うんだろう。勉強になった。
 素直に俺は師匠の墓の前に花束を置く。
 なんだか、すごく変なおじさんが墓の前で何か言ってワインをかけた。
 後はお祈りの言葉ばかっりだったので、俺はつまんなくてルッスに話しかけた。

「早くかえろ」
「だめよ。パパにお別れしてから」

 そう言ったルッスに、俺は変なのと呟く。
(だって、師匠は家でジャパンのコメディショー見てるじゃん)
 声にださなかったのに、ルッスは「それは後3ヶ月は誰にも言っちゃだめ」っと俺を叱った。
 つまらないお祈りの言葉は続く。

(偽装葬式)


 テュールはじっと白蘭を見て、いつも通り笑ってみせた。

「おや、死んだかと思ったら生きてたんだ。弟よ」
「ああ、貴方こそまだ生きてたんだ、お兄さん」

 スクアーロは、その恐ろしい光景を見て失神した。
 この世でもっとも恐ろしく気持ちの悪い人間が、自分の義父と義叔父なのだ。

 この世に絶望して、あの時、鮫に食われとくんだったと思わず世を儚んでしまった。

(超ホラー)


「う゛お゛ぉい、シャマルー……白い悪魔2匹に幼少期のトラウマを植えつけられる夢を見たぜー」
「残念ながら夢じゃないから、安心するな」



「スペルビv」
「ほーら、びゃっくんだよーv」

(誰か助けて)


 なぜそんなに美しいのか聞いたことがある。

「人じゃないからだよ」

 そんなこと、聞かなくてもわかることなのに。

(化け物に聞いてみた)




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