そうしてると親子みたいねっとルッスーリアは言った。
うん、実はそうなんだ。
そう言い掛けて言葉を飲み込んだ。
「だって、二人とも一緒にいると顔が優しいもの」
僕と、スクアーロは、実は本当の親子だ。
父親は知らない。
誰も教えてくれなかったし、知りたくもなかった。
ただ、スクアーロが母親だということは、僕が生まれる前から知っていた。
そう、僕が今は細いこの胎内にいた時から、ずっとスクアーロの声を聞いて、鼓動を聞いて、体温を感じてきた。
生まれたときも、僕にはスクアーロの声とその銀色しか見ていない。
今も、しっかりと覚えている。
周囲が怯える中で、スクアーロだけが、泣いていた。
それは、産みの苦しみの為でも、化け物を生み出した恐怖でも、後悔でもなく、ただ、喜びと、微かな悲しみの伴った涙を零して。
今でもしっかり思い出せるのは、スクアーロが僕の名前を呼んだことだった。
「マーモン」
そのまま、僕は抱きしめる腕から奪われたのだが、紆余曲折を得て、今はスクアーロと共にいる。
奪い取られた先で別の名前を貰ったが、今では忘れた。
このことを知っているのは、僕を取り上げたやつらと、恐らくボスと9代目、後は門外顧問の家光くらいだろう。
なんと言っても、その三人は生まれたばかりの僕がスクアーロから引き離されるのを見ていたのだから。
「そうかあ?」
スクアーロはどこか不満そうに(でも、嬉しそうに)顔をしかめる。
そして、無意識に僕を抱きしめる腕に力をこめた。
鼓動が近い。
胎内にいた時いつも聞いていた音。
ルッスーリアとスクアーロの声を聞きながら、僕は眠くなるのを感じた。
うとうとと瞼が重くなるのと同時、体が浮いた気がした。
いきなりスクアーロが動いたのかと思えば違う。見れば、ベルが僕を抱き上げている。
「もしもスクアーロとマーモンが親子かー」
ベルは目元が見えないけどいつものように唇を歪めて笑う。
僕をたかいたかいのように持ち上げて下ろすとそしたらさっと声を弾ませた。
「マーモンお嫁にほしい時はスクアーロに、マーモンくださいっていわなきゃいけない訳、うしし」
「俺が親だったらてめえにだけはやらねえ……!」
え?と僕が聞き返すより早くスクアーロが怒鳴った。
そして、僕を取り返そうと腕を伸ばすけど、ベルは持ち前の身軽さを生かして避ける。
ルッスーリアが物を壊さないでねっと暢気に言ってる中、僕は一人だけ混乱していた。
「つーか、馬鹿鮫が義理の親なんて最低じゃん」
「やんねーっつってるだろ!!」
僕が、お嫁?
なんだかよくわからない。
現実感のない言葉が頭をぐるぐると回った。
「俺、王子だもん。スクアーロの許可なんかなくてもお嫁さんにするけどね」
「その前にてめえをかっさばいてやらあ!!」
「うしし、王子が馬鹿鮫なんかにやられる訳ないじゃん」
僕は、なんだかお手玉みたいにひょいひょい空中を舞う。
これくらいいつものことだから平気だけど、ベルの言葉が頭を離れない。
どうせ冗談だろうけど、冗談にしても、おかしい。
だって、僕は赤ん坊で、アルコバレーノで、呪われてるのに。
「そうねえ、親よりも二人の気持ちが大事よねー」
やっぱり、ルッスーリアは暢気そうだった。
遠くでいつの間にかお茶を飲んでる。
頭はこの上なく冷静な筈なのに、真っ白だ。
「ベル」
「ん、何?」
「ベルは」
「うん」
「僕のこと、好きなの?」
思わず、口にする。
僕が、好きなんだろうか。
忌み嫌われる僕が。
母以外、誰一人にしたって僕の誕生を祝福されなかった僕を。
好きだと、言ってくれるのだろうか。
「俺、マーモンのこと好きだよ」
ベルは、あっさりと答えた。
躊躇いもなく、あっさりと。
笑いながら。
「嫌いな訳ないじゃん」
マーモンが望むなら、俺、馬鹿鮫にだって俺に下さいって言ってやってもいいよ。
ベルが、いつものようにうししと笑う。
僕は、目頭が熱くなった。
こんなになるなんて、スクアーロに再開した時以来で。
よくわからなくて。
ベルが、僕を持ち上げて聞く。
「マーモンは俺のこと好き?」
スクアーロがなんだか叫んでる。
俺はてめえなんざ大嫌いだとか言ってる。
ルッスーリアは私はスクアーロのことも、ベルのことも、マーモンのことも好きよって。
僕は、
僕は、
僕は。
「すきだよ」
ベルのこと
「すきだよ」
じゃあ、両思いじゃん。
ベルはやっぱり笑って僕を抱きしめた。
スクアーロがなんか叫んでる。
ベルが、僕の頬にキスした。
とうとう切れたスクアーロはベルから無理矢理僕を奪い返してぎゅーっと抱きしめる。
痛いよっと言うと腕を緩めてくれたけど、ベルをぎろりとにらみつけていた。
ベルは相変わらず笑っている。
スクアーロは完全に切れたらしく、物凄い顔で僕をルッスーリアに預けた。
「スクアーロ……ちょっとやめないさよ」
不穏な気配を感じてルッスーリアが声をかけるがなんとなく僕はもう遅いと感じた。
ベルも、気づいたらしく、さっとポケットに手を入れてナイフを掴んだ。
それと同時に、スクアーロは部屋の隅に置いていた剣を右手で掴む。
ルッスーリアはスクアーロが右手で掴んだことから本気でないことを悟ったのだろう、やれやれとため息。
先手必勝とばかりにベルが投げたナイフが壁に突き刺さるのを見ながら「後でボスに怒られても知らないわよ」っとさじを投げる。
そして、受け取った僕をもって安全そうな位置に移動した。
「ルッスーリア、僕ね」
「なあに?」
「ベルも好きだけど」
「ええ」
「やっぱり、まだスクアーロの方が好きかな」
そう言うと、ルッスーリアは苦笑した。
「それは、あの二人に聞かせたいわね。ううん、聞かせない方がいいかしら」
ちらりと見た先で、まだ二人はケンカしてる。
スクアーロが大口を開けて叫んだ。
「マーモンはぜってえ嫁にやらねえ!!」
なんだか、スクアーロは、母親よりも、父親っぽいなあっと思う。
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