1、彼女の夢。

「スペルビ、大きくなったら何になりたい?」
「あいじん!」
「……え?」
「あいじん!! ドン・ボンゴレのあいじん!!」
「……スペルビ?」
「あいじんって、だいすきなひとでしょ? だから、ドン・ボンゴレのあいじんになりたい」
「それ……どこで覚えたの?」
「まえにね、くろふくのおじさんが、ドン・ボンゴレのあいじんかって……」
「そう……ちょっとごめんなさい、スペルビ、あの人へ報告してついでに、始末してくるから」
「おそうじー?」
「そうよ、ゲスな勘ぐりする親父をね、お掃除するのよー」


2、数年後

「スペルビ、大きくなったらどうするの?」
「んー……ドン・ボンゴレの役に立ちたい」
「それは、マフィアになるってこと?」
「あ゛ー……むしろ」
「むしろ?」
「愛人になりてえな」

(愛人だったなら、あの人の寂しさを埋められるだろうか)


3、第一印象ver2

 彼女と、彼ファーストコンタクトはそれはそれは最悪なものであった。
 年上の(と言っても実際の年齢はわからない)筈の彼女はひどく大人げなかったし、彼は年の割に達観し、捻くれていた。
 その上、彼女は明かに少女らしくない格好をしており、彼は少しだけ、そういうことに疎かった。
 最初から大人顔負けの睨み合いを始めた直後、彼女はあっさりと、以降彼との確執の原因となる言葉を吐く。

「チビ」

 彼は、彼女を殴った。
 身長の違いを生かし、無防備なみぞおちに年齢に不釣合いな程鍛えられた力で拳を叩き込む。
 彼女はしりもちをついて咳き込んだ。
 彼は、殴ったその体がひどく華奢で、一瞬壊れてしまったかと錯覚した。
 その華奢さは、痩せていることを除いても細すぎた。
 それは柔らかさを伴う別種の脆さ。
 嫌にまざまざと残る手の感触。
 音を聞きつけたのか部屋に青年が飛び込んできた。

「きゃー!! スペルビ!! 顔!! 女の子の顔は大丈夫ー!?」

 その時、彼は彼女が少女であることを初めて知った。


5、更に数年後

「なあ、御曹司」
「……」
「俺のこと、ママンって呼んで見る気ねえかあ?」
「ダマレ」
「冗談だからそんなに睨むなって」
「……」
「愛人はママンじゃねえもんな」

 がつん。
 彼がいきなり机につっこむのを見て、彼女は驚いた。

「てめえ……あいつの愛人だったのか……」
「な訳ねえだろ、なりたいだけだ」

 その時の彼の顔は、形容しがたかったという。





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