01: 届かないと知りながら
赤い赤い血の海。
その、銀の髪を赤く染めた
その真ん中で、少女はそっと、自分の左手を右手で握り締める。
きしぃっと軋む左手。
その左手は、握り締める右手より少し大きい。
その大きさを確かめながら、目を細めた。
「ちっ、いい義手じゃねえか」
礼はいわねえぞ。
届かない言葉を響かせた。
未亡人1週間目のできごと。
02: 逢えない時間
扉を開けて女は視線を巡らせた。
巡らせた先、そこには子供が待っている。
子供は女の駆けてきた。
女は、その子供がどんな表情をしているか知っていた。
目を輝かせ、待っている表情だ。
そう、子供よりもずっと年は上だったが、同じような体験が女にはあった。
「おかえり、スクアーロ」
「おう、マーモン」
女は子供を抱き上げて、その頬に口付けた。
「?、どうしたのスクアーロ」
「ただいま」
“ただいま、私の小さなかわいい花嫁”
貴方にとっての自分もこうであっただろうか。
03: stand by me
いつか、陳腐な恋愛映画を父が借りてきた。
父はそれがどんな展開になろうが笑っていて、俺はつまらなかったのを覚えている。
何が楽しくて男のこと、あるいは女のこと一つでこいつらはこれだけ泣いたり叫んだりできるのだろうか。
俺がアクビをする。
ちょうど、女が恋人が死んで自分も死ぬと叫ぶシーンだった。
もう立てないと立ち上がれないと叫ぶ狂う。
父は言った。
「人が一人死んだくらいで、立ち上がれない訳がない」
「そうだなあ」
だから、俺はあんたが死んでも立ってる。
後追いや、悲嘆にくれるなんてしてやりません。
04: この距離がもどかしい
あんたと俺の関係は。
父と娘で。
師匠と弟子で。
上司と部下で。
結局、あんたが死ぬまでそんなもどかしい距離にいた。
今は、地上と空の上で、この距離もまた、もどかしい。
結局距離は零にならない。
05: 空が泣く 君が微笑う
白い、白い花嫁を見た。
黒い服の群れで、白く白くそこだけ白く。
振り向いた花嫁の顔は、見慣れた奴の顔だった。
今まで、そんなそいつの姿なんて、見たことがなかった。
むしろ、白を着ている姿を見たのは、性別相応の姿をしているのは、初めてで。
戸惑った。
雨の中、そいつは笑っていた。
微笑んで、そして死者を送る。
目が、離せない。
雨の冷たさで頭は冷えていくというのに。
俺は、まったく冷静になれなかった。
こひの自覚(でもヘタレ)
06: さよならを言う前に
「好きだよ、」
「大好きだよ、」
「愛してる」
「だから、」
「結婚しよう」
早く早く早く早く早く縛らないと。
さようならを言う前に、縛っておかないと。
狂テュール、死の間際、縛る方法ばかり考えてた。
07: もう、離さない
ぼきり。
左手の薬指が根元から折れた。
信じられないという顔で折れた薬指の行方を目で追えば、男は笑った。
「前の旦那なんか、忘れろよ」
男の手の中で、折れた薬指がぎしいっと軋んだ。
「てめえ、返せ」
「やだ」
「やだっていくつだ!!」
「ぜってえ、返さない」
書けたら書きたい山→スク一部。
08: 最初で最後のわがままだから
「なあ、家光」
「どうした?」
「もしも、わがままが言えるなら」
「ああ」
「一緒に生きたかった」
「テュール……」
「だめなら」
つれていきたかった。
でも、やっぱりかわいかったからつれていけなかった。
09: 逃げ水
暗い廊下の向こう。
白い姿が振り返る。
その姿は、記憶のまま。
その笑顔は、あの頃のまま。
時を止めてしまったかのように、そこにいた。
全身が、震える。
搾り出された息が、苦しい。
体から、力が抜けそうだった。
飛び交う感情に、名前がつけられない。
くらくらと、言葉を紡いだ。
「ま、」
「……マーモン」
「あれ、バレた?」
「……前、写真みてえって言ってただろ」
「うん、がんばって忠実に作ったのに、こんなにすぐバレて残念だよ……」
霧散する。
消えていくその姿を見ながら。
目頭が熱い。
「……スクアーロ、ごめん、二度としないから」
(だから、泣かないで)
114発目読んで思ったことは、これはイタズラに使えると……。
10: 神様がいるとしたら
「神様ー、ちょっとかわいい娘兼妻に会うだけなんで、生き返らせてください」
「無茶言うな!!」
神様にだって物怖じしません。
11: melancholic
雨が降る。
ぽつりぽつり。
雨が降る。
ぽつりぽつり。
あの人同じ雨が降る。
「ルッスーリア」
「なあに」
「泣いてんのか?」
「泣いてないわ、ただ、雨を見ると思い出すの」
「……」
「そんな顔しないの……ほら、明日は貴方の結婚記念日でしょ?
何か、好きなものでも作ってあげるわ」
命日の次の日が結婚記念日。
12: もう一度、巡り逢うために
「テュール」
「お久しぶりですね、ドン・ボンゴレ」
「あの子いかせたのか?」
「ええ、たぶん、あの子が帰ってくる頃には、私は生きていないでしょうね」
「最後を、見てほしくないか……」
「いえ、本当は最後まで近くにおいておきたかったんです」
「ならば、なぜ?」
「猫が死期を悟った時、どこかへ消えるというのを知ってますか?」
「……そんなことも、言ったかもしれんな」
「ええ、その理由は、もう一度巡り逢うためだと私は聞きました」
死の間際を大切な人に見られなければ、また近くに生まれ変われる。
「ドン・ボンゴレ、なんて顔をするんですか、迷信ですよ」
そう、彼は微笑んだ。
猫がフラリといなくなるのは色々な説がありますが、最近はそれが習性だからとわかったそうです。ロマンが足りません。
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