箱庭の前後



 少年と少女が物心がついた頃、母親はいなかった。
 変わりに父親がいて、母の役割は全て父がしてくれる。
 母は、死んだ訳ではなく、何か仕事だとか何かがあるとかでいなかった。
 時折、叔父と名乗る人がやってきて少年と少女をかわいがる。
 母は叔父に似ているらしく、叔父を女にしたようなのだと父は適当に言っていたが、少女と少年には想像不能だった。
 その内、父は少年と少女を学校に行かせたかったようだが、どうも父にも母にもしっかりとした戸籍はなく、少年と少女にもやはり戸籍がなかった為断念された。
 しかし、父や叔父、テレビから学校代わりに色々なことを学んだ。
 勉強も、常識も、自分たちのことも、学校では教えないような、生き抜き方や戦い方、世界のあり方、表の世界、裏の世界……そして、昔話も、全部父と叔父が教えた。
 少年と少女はわからないことも多々あったがとにかく教えられることは全て吸収した。
 なぜなら、少年と少女にとって、世界とは父と叔父だけだったからだ。
 理由は後になってわかるが、少年と少女は箱庭のような場所から出れなかった。
 父は時折買い物で外へでかけるが、少年と少女は出られない。
 いや、正確には出なくてもよかった。
 ただ、父と叔父と少女と少年で世界は完結していたのだ。
 それが、少年と少女にとって最良で、幸福な世界だった。
 しかし、その完結した世界は、母親によって崩されることとなる。
 いや、母は別に崩そうとは思っていなかった。
 そもそも、そこは母の場所であり、母はただ帰ってきただけ。
 しかし、やはり、少年と少女は、崩されたと思った。
 それは、今、目の前の光景を見ているとひしひしとわかる。











「おはよ、スクアーロ」











 眠たげな目をこすりながら、母は誰よりも遅く起きる。
 そして、父に向かって眼帯を差し出すと、つけるようにねだるのだ。
 父はそれに特に何も思っていないのか、慣れた仕草でその眼帯を結ぶ。
 すると、母は嬉しそうに笑って父に毎朝恒例のおはようのキスをするのだ。
 少年と少女は今でこそ慣れたが、最初に見た時は驚いたものだ。
 なぜなら、母と父のおはようのキスは、額や頬というかいわいい場所ではなく、触れるだけという大人しいものでもない、いわゆるディープと呼ばれるものだった。
 子供の前だというのにまったく遠慮も躊躇いも恥じることもなく、やってのける。
 そのあまりの激しさに幼い少年のトラウマになったほどだ。
 そもそも、父と叔父以外知らない少年と少女は、女性という存在すら初めて見たというのに母はそんなこと一切気にしなかった。
 裸同然で歩くし、平気で父とぎりぎりのいちゃつきを始めるし、キスはおはようだけではなく、いってらっしゃいも、おかえりなさいもおやすみなさいもありがとうもごめんなさいも何ら恥じることなくやってのける。
 父と母は夫婦なのだから恥じることは何もないとはいえ、少年と少女には過激すぎた。
 しかし、そんな大胆な母よりもなによりも驚いたのは、父の対応だった。
 父は、そんな母の行動をまったく咎めず、抵抗せず、受け入れてしまったのだ。
 いや、受け入れたというよりは、慣れて感覚が麻痺してしまっているのだろう。
 普段はストイックで、潔癖な一面もあるとうのに信じられないほど、あっさりしていた。

「スクアーロ」
「なんだあ?」
「だいすきだよ」

 母は、父の広い背中に抱きついた。
 そして、耳を背中にぺたりとつけると鼓動を確認し、頬をすりつける。
 父はそれを止めることも嫌な顔もせず受け入れて母の頭を撫でる。
 身長か、あるいは年の差のせいか、その光景は夫婦というよりは兄と妹、または飼い猫と主人にも見えた。
 ふっと、母が少年と少女の視線に気づいて笑う。
 いつ見ても母の笑みに驚いてしまう少年と少女は少し身を硬くした。

「おいで」

 母は、手招きした。
 優しく誘う呟きは、少年と少女の体から力を抜く。

「一緒にくっついちゃお」
「う゛お゛ぉい、まだ俺は飯作ってんだぞ?」
「いいの」
「てめえがよくても俺がよくねえだろ!! 火使ってんだぞ!!」

 母は、ぎゅーっと父に抱きつきながら少年と少女に笑いかける。
 少年と少女は目を合わせると、同時に飛びついた。
 父の体のバランスが崩れ、あやうく髪の毛をフライパンにつきそうなところで踏みとどまる。

「う゛お゛ぉい!! てめえら俺を朝飯にする気かあああ!!」

 きゃーっと少年と少女が甲高い声をあげて笑った。
 父は一度フライパンから離れ、少年と少女の頭を強くがしがしと撫でる。
 すると、母は私も私もと顔を寄せた。
 そこに、父は軽く音をたててバードキスする。

「パパ、私も!」
「俺も!」

 顔を寄せる子供に、やれやれと父はその額に口付けを落とした。

「クフフ、僕抜きで楽しそうなことしてますね」
「……叔父さん」
「千種……犬……」
「てめえら、黙って見てるのは趣味がわりぃぞお」
「クフフ、すいません、あまりにも楽しそうだったので……さて、僕も家族としてその団欒にいれてもらいましょうか」
「骸さんずるいれす!! 俺もいれてほしいれす!!」
「俺も……」
「だったら、全員で抱きつけばいいじゃない」
「それもそうですね」
「俺の意思は無視かあ!!」

 がばあっといきなり三人が抱きつき、さすがの父も床に倒れる。
 途中で何かにぶつかる鈍い音がしたものの、父以外は全員笑っていた。

「いでえええ!!」
「さあ、僕と犬と千種にもぜひともキスを、僕には唇で」
「なんで俺が自分の息子でもねえ男にキスしなきゃいけねえんだよ!!」

 怒鳴り声の響く中、少年と少女は笑う。
 崩された箱庭は、決して居心地は悪くなかった。


 ネタバレをちらっと読んだら書き途中の髑髏ちゃんネタが危なくなったので急ピッチで書き上げました。
 狼と花シリーズ、ほのぼのらぶらぶ髑髏スク。
 髑髏ちゃんは骸の双子の妹で、戸籍がありません。スクアーロは死んだことになってそのままなので鬼籍です。
 そして、箱庭から出られないのは、スクアーロが死んだことになっている&危険から子供を守る為です。
後、子供たちが出たいといわなかったから。
 髑髏ちゃんは霧の守護者として色々やってるし、裏で色々やってるから恨みをバンバン買っています。
 そこに、狼くんはともかく花ちゃんは(変な略称使わない)もう、お母さん&叔父さんそっくりなのでやばいということで……。
 一番はスクアーロそっくりな狼くんも、髑髏&骸そっくりの花ちゃんもボンゴレに見つかるとどうなるかわからないというところが大きいですが……。  まあ、とにかく、らぶらですこの夫婦。むしろ、バカップルに近いです。
 気づけば、このサイトでのスクアーロの年齢と髑髏ちゃんが実は10前後年が離れていて、もしやスクアーロ、ロrk……いえ、なんでもないです。
 とりあえず、いつもらぶらぶいちゃいちゃしてる両親を見て狼くんは恥ずかしい、花ちゃんは私もあんならぶらぶ夫婦になりたい!!と思うことで色々道がわかれました。
 それにしても、いつも狼と花シリーズは説明が長くなりがちです。
 あとがきはあまり書きたくない主義なのに……(めんどくさいから/コラ)




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