「神様なんかいないんだよ、スクアーロ」
「神様なんかいないんですよ、スクアーロ」
少年と少女はにっこり笑って同時に呟いた。
あまりにもぴったりと合った声のせいか、ステレオのように聞こえる。
不思議と無邪気な声はよく響き、男の耳まで届いた。
「だって、神様がいれば、私は救われてるから」
「だって、神様がいれば、僕は生まれてません」
振り返る男に、まったく同じ笑顔で少年と少女は男へと歩いてくる。
「私ね、昔すごく祈ったの、神様神様って」
「僕は、昔すごく怖かったんです、神様が」
「いつか救ってくれるって信じて」
「いつか罰せられるって信じて」
「でも、救ってもらえなかった」
「でも、罰せられなかった」
「私はすごく惨めでかわいそうだったのに」
「僕はすごく醜くてとても罪深かったのに」
くすくすと少女は笑った。
くふふっと少年は笑った。
いつしか、前を歩く男へと追いつく。
「「だから、神様はいない」」
同時に呟いて、少年は男の右腕に、少女は男の左腕に飛びついた。
「スクアーロは神様信じてる?」
「スクアーロは神様を信じてますか?」
「……神様がいりゃ、今ごろ俺はぶち殺されて道に捨てられてる」
男の呟きに、それもそうだと少年と少女は肯定する。
少年はその腕に顔をよせ、暖かいと呟いた。少女はその左手に頬をよせ、冷たいと呟いた。
そして、同時に血の匂いがすると笑う。
「骸様と同じにおいだ」
「僕と同じにおいです」
嬉しそうに、少年と少女は腕に力をこめた。
そして、今度は交互に口を開く。
「でも、悪魔は信じてるんだよ」
「きっと、残酷で醜くてとびっきりひどい悪魔はいますよ」
「でも、私悲しくないの」
「むしろ、嬉しいくらいです」
「神様がいたら、私、骸様にも犬にも千種にも会えなかったから」
「それに僕らの優しい傲慢な悪魔がここにいますから」
「大好き」
「愛してますよ」
「私たちのdiavolo、スクアーロ」
「僕らのLucifero、スクアーロ」
「だから、ずっと一緒にいてね」
「だから、僕の傍にいてください」
悪魔を好む少年と少女は、笑いながら小さく小さく、悲しく呟いた。
「どうか、堕天使のままでいて」
「貴方の恐ろしい神様のところへ帰らないで」
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