選択権



 俺の従兄弟は変なことを言う。
 結構、血が近い従兄弟らしいけど、顔も似てねえし、性格も全然違う。
 俺と同い年くらいで、いつもなんだか嬉しそうに笑ってて、性格とか笑い方も変だ。でも、右目に眼帯はちょっとかっこいと思う。
 そんな従兄弟は、俺によく変な話をする。
 でだしは

「僕と貴方はね、前世で会っていたんですよ」

 いつもこうだ。
 なんだか、妙にリアルだけど夢見がちな前世の話は、俺を楽しませた。
 ちょっとグロかったり、意味がわからなかったり、正直電波だったりするけど、おもしろいと俺は思ってる。
 正直、いきなり話し出すから聞くのがだるいときもあるけど、聞いてなくても話し続けるからしょうがない。

「君に以前会った時は、貴方は男で、僕の敵側の人間でした。でも、僕は貴方はなんだか勝負をしていて、会う前に負けててですね。しかも一度死んでたんです」
「しんでたら、あえねえだろ?」
「いえ、まあ、君的には死んでたみたいですよ。そこをこう、雨の日に捨てられた子犬みたいに僕が拾ったんです。
 そしたら、めちゃくちゃ怒って暴れるもので、支配しちゃったんですよ」
「けんかしたのか?」
「そんな感じです。でも、すぐに仲良くなって僕の世話をしてくれたんですよ。でも、最後には――」

 最後には?

「最後には……」





(骸)





 握った手が離される。
 痛いほど強く握った筈なのに。
 力なく下がった手。
 持ち上げることもでないほど重い。
 背中が遠のいていく。
 銀色が、きらきらと。きらきらと。
 その名残すら、僕は掴めない。
 いかないで、と叫びたい。
 でも、みっともなくてできなかった。
 届かない。
 どうせ、届かないと知っていたから。
 とめることなんてできる筈が無い。
 僕は

 



(ごめんな)





「――最後は、自分の場所に帰ってしまったんですよ」
「むくろのところじゃねえの?」
「残念ながら」
「ふーん……」
「貴方の帰る場所は、僕じゃなかったんです。一生を誓った男のもとだったんです。
 なんであんな酷い男がよかったんでしょうか、僕にはさっぱりです」
「そんなにひでえやつだったのかあ?」
「そりゃもう、前世の貴方は酷い男に惚れてたんですよ!
 鬼畜だし、サディストだし、乱暴者だし、口より先に手が出るし、短気だし、貴方をちっとも大事にしないくせに手放さないし、嫉妬深いし、ボンゴレと一緒に僕をタコ殴りにするし!! ああ!! 思い出しても腹がたつ!!」
「へー……おれだったらそんなひでえやつのところ、ぜったいかえらないのになあ」

 想像して俺は顔が歪むのがわかった。
 殴られる痛みは、よく親父が殴るので知っている。
 従兄弟の話によれば、俺は結構気軽にぽんぽん殴られていたそうだ。
 俺だったらそんな奴からすぐさま逃げさすのに。
 帰るなんて、従兄弟の話の中とはいえ、バカな俺だ。

「そんでもって、むくろのとこにずっといるのに」

 従兄弟が、俺の手をぎゅっと握った。
 なんだか、真剣な顔で「選んでくれますか?」と呟く。
 俺は、ちょっと考えて、うんっと頷いた。
 だって、そんなすぐ殴る奴より、従兄弟の方がずっといい。
 頭いいけどなんか頭おかしくて、いつも笑ってるけど全然楽しそうじゃなくても、強いのによく殴られてるけど、優しいし、おもしろい。
 ずっと、ずっと、従兄弟の方がいい。


















(うそつき)


















 小さく、小さく、聞こえないくらいの声で骸が笑った。
 全然嬉しそうじゃない顔で、俺の手を痛いくらい握る。
 俺は、あんまり小さい声だったから聞こえないフリして首を傾げた。

「なんかいったかあ?」
「いえ」

 何も。
 そう言って首を横に振る。
 俺は、従兄弟の手を握り返した。

「だいじょうぶ」

 従兄弟は、なにが、とかどうしてっと聞かない。
 ただ、泣きそうに笑って。

「大丈夫ですよ。
 だって、貴方の言うとおり、今回は彼は選ばれませんからね」
「?」
「愚かにも選択を間違ったものにチャンスは与えられませんから」

 従兄弟は、やっと嬉しそうに笑った。
 今にも高笑いをあげそうなほど唇の端を吊り上げるとクフフっと声を漏らす。
 そして、俺の手を握ったまま、高々と持ち上げた。

「まさか、貴方を間違えるなんて、これは物凄いミスですよね。取り返しがつきませんよね。まったく、これだからにわかは困るんです。ヘタに記憶が残ってると目もあてられませんね!!」

 クハハハハハっと高笑いになった笑い声によくわからず俺も笑う。
 笑っていると、親父が大またで近づいてくるのが見えた。
 やばい。
 なんだかやばい空気をまとってる。
 親父はめちゃくちゃ怒った顔でまず、高笑いを続ける従兄弟を殴った。
 容赦のない一撃に従兄弟はふっとぶが、まだ笑ってる。
 どころか、命知らずに親父を指差して「やーいやーい」とでも言い出しそうな顔で笑い続けた。
 俺は止めようとしたけど、親父の真上からの一撃に声のない悲鳴をあげることしかできない。
 正直、涙が出るほど痛い。
 なのに、従兄弟は笑ってて、俺の手を握ってた。
 しかも、なぜか親父の見せ付けるように突きつけて。
 親父は益々怒って従兄弟を蹴りつけた。
 他人の子だろうが親父はまったく気にしない。
 つーかこれ、今よく見る虐待ってやつじゃねえのか。
 絶対言えないけど、俺は心の中で文句を呟いた。
 すると、親父はまるで俺の心の中が見えるみたいに俺をもう一度殴りつける。
 そしたら、従兄弟は高笑いをやめて何か叫び出した。
 俺は目の前がちかちかしてよく聞こえない。


















「悔しいでしょう!! はは、貴方は間違えたんですよ。選択を誤ったんですよ!! 彼が欲しいあまり目先のそっくりな、ぷっ、いや、彼の母親に手を出すなんて!!」
「クフフ、かわいそうな人だ。同情してあげますよ」
「ちらちら翻る残滓なんかにしがみつくからそうなるんです。貴方ならじっくり、冷静に見ればわかった筈なのに」
「もう、失敗した貴方には選ぶ権利も選ばれる権利もないのですよ」
「クフフ、慌てるこじきはもらいが少ないとでも言いましょうか。でも、よかったんじゃないですか? 貴方が焦ったおかげでこんなにも早くこの子に出会えたんですから。
 もしも貴方以外だったらこの子が生まれるのはもっと後だったんですし」
「羨ましいですか? だって、今回は僕が選ばれたんですよ。貴方がいないから!! 貴方を選べないから」
「同情してあげますよ、感謝もしてあげましょう。だって貴方のおかげだ!!」


















 殴られながら、なんか従兄弟が叫んでる。
 痛くて耳の奥がじんじんしてわからないけど、俺の視線の先にゆっくり叔父さんが近づいてくるのがわかった。
 叔父さんは優しく親父に何か話し掛ける。
 ああ、親父と叔父さんは似てないなっといつも思う。
 だって、叔父さんはあんなに優しくて、柔らかい茶色の髪と目なのに、親父はばさばさの黒い髪と妙に凶悪な赤い瞳をしてるんだから。
 そう考えたら俺も親父とは似てないなって。
 俺はお母さん似の白髪で目も白だし。
 従兄弟は銀だと言うけど、母さんほどきれいじゃないから、やっぱり白だと思う。
 ああ、そんなことはどうでもいい。
 叔父さんが、従兄弟と俺の繋いでいた手を離して、代わりに、なぜか俺と親父の手を繋がせた。
 親父は急におとなしくなって、なんだか親父らしくない。
 親父のでっかい手が、ぎゅうって俺の手を強く握って。

















(あっなんか、泣きそうだ)


















「じゃ、俺は骸つれて帰るから」
「いやです。僕は、彼と」
「我侭言うと首が180度回るまで殴るよ」
「……」

 従兄弟が引きずられていく。
 親父は、まだ俺の手を握ってた。
 そんでもって、骸と同じくらいすごい小さい声で、知らない人の名前を呼んだ。
 俺は、なんだかよくわからなくて、でも、ずっと手を握ってた。
 
「親父、」

 なんだか、謝らなければいけないような気がしたけど、声は喉から出なかった。


 来世パラレルで骸vsザンザス。
 考えてみれば、このサイトでぶつかりあうことがなかったような気がするので、思いっきりぶつからせてみました。
 最後の叔父さんはわかると思いますが、ツナです。
 とりあえず、関係としては、ツナとザンザスが兄弟(ありえない)で、スクはザンザスの子で、骸はツナの子供です。
 ザンザスは、少しだけ前世の記憶があって、スクに会いたくて色々焦ってて、でも実はスクはまだ生まれてなくて、ぱっと目の前に現れたスクのお母さんをスクと勘違いして手を出して、生まれてみればスクこっちだあ!!
 というかわいそうなパパザンザス。
 スクも、スクのお母さんも好きなので、すごい板ばさみ。
 どこにも続きません。
 




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