「久しぶりですね」
いきなり俺を押し倒しやがった女は言った。
なんだこいつ。
変な眼帯した女だった。
年の頃なら13,14、日本人は小さいし、女は童顔だった為もっと上かもしれない。
だが、お久しぶりだとか言われてもこいつの顔にはまったく見覚えがない。
むしろ、俺に日本人の、女の、しかもこんなちっちぇえ奴に知り合いはいない。
それなのに、女はにこにこ笑いながら嬉しそうに懐かしそうに俺を見ている。
あまりにもその瞳に嘘も濁りもないものだから俺は考える。
これほど印象的な女を忘れるものだろうか。
普通だったら、忘れない。
そりゃ、一見は普通の女だと思った。
いや、好みではないが普通よりもかわいいとも言える顔立ちをしているし、ちらりちらりと服の隙間からから見える腹や足は魅力的とも言えるだろう。
だが、それだけだ。
本当におかしいのは、こいつの目。
嘘も濁りもないくせに、妙に昏い。
薬物中毒の奴だってこんなヤバイ瞳をしてはいないだろう。
澄み切っているというのにその目に宿る光は昏いとしか言いようがない。
堅気の目ではない。それは、異常者の目だ。しかも最近なったとか、にわかな訳がない。
ほとんど生まれつきだろう、生まれつきでなければこんな目はできはねえ。
こんな異常者の目をしている女は絶対に見たことがないと確信できる。
「覚えてますか、私のこと、いいえ、言わなくてもわかります。覚えてませんよね、私のことなんか」
しかも、俺の腹の上に馬乗りになったまま自己完結しやがった。
聞いておいて覚えてないだろうなんて断定しやがる。
確かにまったくこいつの顔なんか覚えてない、つーか、最初っから知らない。
「でも」
ヘタな泣くマネをしながら、しかも特別騙す気もないのだろう、いきなり笑顔に変えると堂々といいやがった。
「大丈夫です。思い出はまた作ればいいんです。そうあの時のように」
あの時ってなんだ。
俺は聞きたかったが女の雰囲気に押されて何も言えない。
ルッスーリアの「あなたは押しに弱すぎるわ」という言葉を思い出した。
だけどよお、この女の押しは異常だろう。
俺は眩暈を覚えながら幻覚のルッスーリアに言い訳した。
「大丈夫です。私達はやり直せます。だって」
思考を放棄する俺に、女は脳が揺れる程衝撃的な言葉を浴びせた。
「私達、前世で恋人同士だったんですから」
女は、電波だった。
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