小さく小さく零れるのは、擦れた鎮魂歌。
それは雨の音に似てひどく心地よく辺りに響いた。
聞くものはただ躯だけ。
爆音。
そっと、男たちが目を閉じ、黙祷する。
二人の表情には複雑な感情が混在し、なにを考えているかを読みとらせなかった。沈黙のまま、煙のはれる辺りに近づくが、その足は、すぐに止まることになる。
なぜなら、煙の向こうに、いたからだ。
「……」
ほとんど、満身創痍と言ってもいいだろう彼が、ぼろぼろになっても立っていた。白い髪はひどく乱れ顔には小さな傷がいくつか血を滴らせ肩から槍のような棒をはやし、今にも倒れそうでありながらも生きていた。
彼は、ひどく冷めた瞳で二人を見据えている。
まさかっという言葉が二人の顔に浮かぶ。
あの爆発は人一人を吹き飛ばしたり無残にもばらばらにするほどではないが、それでも人を殺すには十分なものだったはずなのに。
「ごーらが」
うまく回っていない舌が、紡ぐ。
「あのしゅんかん、ごーらがおれをかばった」
思わず、視線が無残にも原型をほとんど留めていないソレへと移る。
衝撃にどうなったかは覚えていないが、庇われていなければ彼は生きていなかった。だから、庇われたと確信している。
「バカだなあ」
けらりっと、乾いた笑い声。
言葉とは裏腹にその口調はひどく優しい。
「さあ、つづきといこうぜ……」
剣を構え、壊れ狂った人形はけらけらと笑った。
「……だー……にしても、また逃げられたあ……」
スクラップと貸した残骸にもたれかかり、彼は聞く。
「怒られると思うかあ?」
返事は無い。
「怒られるのは、嫌だぜえ……」
まるで、子どものような言葉。
今にも死にそうなほど体は傷つき、壊れているというのに。
赤く血で汚れてこそ美しい彼は、異常なほど透き通った瞳で曇った空をみあげている。
「……早く……姉様たちも、正一様も迎えにきてくれねえかなあ……」
目を伏せれば、ぽつぽつと雨が降る。
「んー……なんか……雨……って、すごい大事だった気がするのに……」
思い出せない。
なぜ、大事だったのか。
雨でいなければいけないと思ったことがあったような気がする。
誰かのために、雨であろうと有った気がする。
「誰の、ためだったかな……」
記憶に赤いなにかがチラついたのに、なぜか心は動かなかった。
あめあめふれふれXXさんが。
お迎え嬉しいな。
あれ? 誰が迎えにきてくれるんだっけ?
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