さあ、皆様お手をどうぞ。
最後のダンスが始まりました。
「やっぱり、私じゃだめね……」
顔についた傷を気にするフリをしながら、血まみれの男は何気ない仕草で息を整える。
対して、相手は腕を押さえている息を激しく乱しながら感情の混ざりきった瞳で男を見ていた。汗すら伝っているが、それが物理的なダメージからきたものではないことを男は知っている。
彼は、今、壊れかけているのだ。
心が、壊れかけている。
「乱れたスクちゃんなら、いけるかなーっと思ったんだけど」
男は距離をとりながらもう一度構えた。
同時に、相手も唇を噛み締めながら構える。
「私だけじゃ、無理ね」
ゴーラ。
小さく呟かれた言葉。
同時に相手の後ろに巨大な影が現れる。
「ねえ、スクちゃん、マーモンもベルちゃんも勝てなかったのに、一人で来ると思った?」
卑怯でごめんなさいね?
そう告げる声を聞いたか聞いてないかはわからない。
確実に反応できるタイミングではなかった。
けれど、相手はまさに神業の域で反応し、巨大な影に向き合った。しかし、そこまでである。いくら神業の域で反応したところで、そこから先にまで到達するのは不可能だった。
勢いよく振り上げられた拳は相手を殴りつけ木の葉のように吹き飛ばした。
地面にたたきつけられ呻きながら、機械音を聞いた。
巨体に似合わぬ速さで距離をつめ、ソレはとどめを刺すべく自らの武器を相手に突きつける。
「……ごーら」
が、止まった。
小さく呟かれた言葉が、乱れた髪の間から覗く瞳が、ソレの動きを止める。
「ゴーラ!?」
男が声をあげた瞬間、ソレは再び動き出した。
しかし、それまでの間はすでに致命的であり、ソレの命運を決めている。
バネ仕掛けの玩具のように相手は勢いよく起き上がると、その刃を正確にソレの核へと突き刺したのだ。
「……すまねえ、ゴーラ」
呟いて、ソレの停止音を聞く。燃費の悪すぎるソレは核たる部分を貫いただけであっさりとそれこそ動いていたのが夢のようにぴたりと止まった。
ほとんど瞬きと言ってもいいほどの黙祷。
そして、男はソレから剣を抜くべく身を、
「ありがとう、ゴーラ、そしてさようなら」
引こうとした瞬間だった。
相手の肩を何かが貫通し、痺れと共にソレにも突き刺さる。
「れ……」
「ごめんなさい。もしもゴーラでいけるならそれでもいいと思ったけど……年をとった分私も慎重になったの」
いつの間にか男に肩を貸すように誰かが増えていた。
その手には相手の肩に貫通したものと同じ得物が握られている。
「くっ……」
激痛に顔を歪めながらも動こうとするが、痺れと食い込んだ凶器のせいで動けない。
間近にいる相手だけが、不自然な音を聞く。
「できれば、キレイな死体がよかったけど……でも、そんなの起きたボスとベルちゃんが見たらかわいそうよね……」
さようなら。
その声は爆音とともに消えた。
足を踏んでも笑って許してくださいね?
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