罪と戦う2回戦



 ようこそ瀕死のピーターパン。
 ネヴァーランドは消えたけど、いったいどうするの?


「ベルは殺させない」

 血まみれの青年を見下ろしていた男は、くるりと声の方向へ首を動かした。
 そこには、見知らぬ青年が立っている。
 否、その青年を男は知っていた。その姿に目を細め、まるで懐かしむように口を開く。

「出てきちまったのかあ?」
「悪い?」
「悪くねえよ。お前の意思だあ」
「ねえ、ベルにも言われなかった」

 青年は、見えない力でふわりと浮く。同時に世界は別物へと姿を変わる。
 それが、青年の力だとしている男は驚きも迷いもせずただ青年を見ていた。今見下ろしていた青年同様、自分を本気で殺す気だとわかっているのに、何一つ臆するところはない。

「前みたいに喋るなって」
「ああ、言われたぜえ」
「せめて、君が変わってくれれば、狂ってくれていればよかったのに」

 青年の声はどこまでも冷たかったが、悲しげでもあった。
 フードの下で見えない目が、寂しげに揺れているだろうと男は確信している。
 なぜなら、ずっと一緒にいたからだ。
 付き合いはどちらかといえば倒れ伏している青年の方が長いだろうが、会話した回数や、触れ合った時間の濃さは上だと。

「俺は正気だあ。正気で裏切った。正気であいつを後ろから刺した。正気でここにいるし、正気でベルを殺した。
 正気でてめえも、殺してやるよ。マーモン」

 血まみれの剣を振り、完全に青年へと向き合う。
 世界の変質は止まらない。むしろ加速する。

「一つ、訂正させてもらうよ。ベルはまだ死んでない」
「そうかよ。トドメさしてやってもいいけど……てめえを呪いより先に殺してやるのが、最後の情けだあ。後にしといてやる」


 ねえ、大人になったら死んでしまうけれど、どうするの。


TOP


Copyright(c) 2007 all rights reserved. inserted by FC2 system