「はじめまして、剣帝さん♪」
白い影は、闇の中で微笑む。
同時に、振返った白い男もまた、同じ笑みを浮かべる。
「……君が、白蘭かい?」
「ええ、お気軽に白蘭様と呼んでください」
「残念ながら、私はもう若くなくてね。ガキの戯言なんかには付き合わないことにしてるんだよ」
「おやおや、噂より意外とお堅いんですね」
「そりゃ、俺の息子をぶんどりやがった泥棒猫野郎が相手だからな」
微笑合いながら、お互いの間に殺気をみなぎらせる。
白い影は無防備に、白い男はその血まみれの剣をゆるやかに構えながらにらみ合う。
見回せば、死体以外でここに存在しているのは、二つ白のみ。
「訂正してほしいな、あの子は僕のだよ?」
「俺のだ、殺す」
「やれるの?」
「殺る」
白い影は、益々笑みを濃くした。
すでに、殺気は切れるほど煮詰まり呼吸もし辛いほど濃くなっている。
それなのに、なお笑う。
笑って、笑って、笑って、今にも声をあげそうなほど笑い。
白い指を、白い男へと指差した。
「相手が、この子でも?」
それは、決して早くなかった。
白い男であれば簡単に捉えられるほどの速さで、現れ、そして、銀色が舞う。
「す、」
白い男は、ソレの名を口にした。
しかし、その言葉は最後まで形にならない。
舞い散る銀の中で、鈍い色の刃が、その腹に突き刺さったからだ。
避けられた、はずだった。
動きは、全部見えていた。
それでも、あえて、受け入れた。
胃から血液がせりあがり、その美しい唇から零れる。
ソレは、迷うことなく刃を抜き、背を向けた。
ゆっくりと、白い肌を赤に染めた男が倒れていく。その背に、腕を伸ばしながら。
小さく、小さく、何度もその名を、息子の名を呼びながら。
「す、す、ぺる……び」
男の瞼がゆっくりと閉じきる前に、ソレは白い影に、現在の主の傍にたどり着く。
そして、その銀色の頭に、白い指が乗った。
「はい、よくできたました」
(ああ、ちくしょう……俺だってあんまり撫でてないのに)
男は、それだけ心の中で呟いて、意識を失った。
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