「ああ、死ぬかと思ったぜ」
「今すぐ死ね」

 剣帝の腕に3重の拘束をつけながら医者は言う。
 そんなことをしなくとも本来、剣帝の体は指一本動かすこともできない状態のはずだった。しかし、この剣帝がそんな状態でも平気でスキップをかましたり暗殺にいったりしたことがあるのを知っている医者は容赦しない。

「んなこと言いながら俺を治療してるてめえはなんだ。あれか? ジャポーネで流行りのつんでれか?」
「変な言葉ばっかり学習するんじゃねえ。今すぐ毒を打って、俺を楽にしてやりてえけど、お前を今治療せず殺したら化けて出そうだからだよ」
「ユーレイなんて信じてるのか?」
「見たやつがいるからな」

 実を言うと、剣帝が負った傷はかなりひどいもので放っておけば激痛とその後に来る発熱のためを麻酔まで打ったのだが、こうして起きていることからやはり、3重を4重にするべきか医者を迷わせていた。

「で、てめえどうやって俺を背負って逃げたんだ?」

 ぎくりっと、医者は剣帝の笑みに動きを止めた。

「いくらあの子がボロボロだからって、俺にトドメささねえわけねえだろ。何を取引した」

 そう、どのような状態であったとしても、トドメを刺さないことなどありえない。
 剣帝のように意識を失ったならばともかく、否意識を失ってもなお、トドメを刺す。そんな風に、できているのだ。

「げどくざい……」
「……聞こえねえ」
「てめえが足に仕込んだたやつの解毒剤だよ!! あれと取引したんだよ!! てめえが使う毒なんざだいたいわかる」
「………ちってめえのせいでスクアーロと心中し損ねた」
「助けてもらっといてその言い草はなんだ」
「あの子と、死ねるチャンスだったのに」
「けっじゃあ、俺はてめえへの嫌がらせになったってわけだ。ばんざーい」

 たいして嬉しくなさそうに両腕をあげる。
 対して、剣帝は、この世で最上の笑顔を浮かべ、最高の嫌がらせを紡いだ。


「ありがとう、シャマル」


 医者は、耳が腐った。



 シャマルにとって最もダメージの高い言葉、それは正の方向の位置にある言葉です。特にテュルに言われると耳が腐ります。

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