「親父、親父、てめえは弱くなったなあ」
「そうかい?」
「ああ、あんたは強かったぜえ。いつだって強かった。俺はいつもてめえが怖くて怖くてしかたなかった。あの時だってぴくりとも動かないてめえに怯えてた。息だって止まってたのに起き上がって笑うんじゃないかと怖かったぜえ」
「息子に怖がられるなんて、寂しいね」
「ほんとはこんなこと、てめえに言うなんざあ、負けたみたいで一生言う気なかたんだけどよお、気が変わった」
「今なら、殺せそうだからかい?」
「違う、俺が、もう怖いだとか負けたとか感じられるほど、正気じゃねえからだあ」
「なるほど、正しいよ」
しかしっと、小さく剣帝は呟いた。
その真っ黒な双眸を微かに細める。
「まさか、傷一つしかつけられないなんて、ね」
血まみれの剣帝は、地面にべったりと背をつけ、敗北を感じる。
なんという圧倒的な敗北なのだろう。
ぼんやりと考える。これほどまでの敗北は少々懐かしいほどだった。
剣帝は彼の顔についた傷を見て思う。
(ああ、あれは残らないといい)
あまりにも場違いな考えだが、剣帝の中ではまったく矛盾もおかしさもない。愛しい息子の顔に傷が残るなど、できれば避けたかった。けれど、同時に残れば残るでいいかもしれないとも考える。
「俺も、正直腕もう一本、もってかれるかと思ったぜえ」
すっと、血まみれの刃が剣帝の首につきつけられた。
「言い残すことは?」
「愛してるよ」
「気持ちわりぃ」
「それと、私の暗器が一つだと思ったかい?」
ふっと、剣帝の唇が細められる。
咄嗟に体を引いた瞬間、どすっと、腰に鈍い衝撃。
「これだけ、血を吐いているのに口からなにが出てくると思ったんだい?」
振り向けば、剣帝のブーツから刃が生えていた。
それは深々と骨を避け、彼の内臓に突き刺さっている。
「なっ……」
「私は、シャマルの言うとおり、ド外道で鬼畜なんだよ、スペルビ?」
がくりっと、彼の体が揺れる。
腕に力が入らない上に、ひどい眩暈。痛みよりも、くらくらとふらつく頭の方がきつい。
「さて……うまくいったけれど……」
私も動けそうにないなあ。
剣帝は、にやりと笑って呟いた。