「愛しているよ、スクアーロ」
殺し合いにまったくそぐわない言葉を吐き出して、剣帝は過去に一度打ち破られた相手に微笑んだ。この世の愛の全てを詰め込んだような、とろけるような笑顔に、息子は顔を歪める。
「気持ちわりぃ」
まるで、まるで殺し合いの途中とも思えない会話だった。
息子は防御を無視して打って出る。
対して、剣帝はカウンター気味にそれを待っていた。
かと思えば、リズムを狂わせるように距離をとり、時折言葉を交わす。
まるで、一種の舞踏のように見えた。
殺意も剣も技も全て本物でありながら、その流れるような様は、殺しあう二人の姿はあまりにも美しく、怖い。
本当ならば喉笛を突くはずの剣を見切り、心臓を貫くはずの一撃を繰り出す。けれど、予定調和のようにそれは受け止められ、さばかれた。
永遠に続くような時間。
しかし、永遠など存在しなかった。
「あっやりやがった」
それは、剣を受け止めた息子の腹を、剣帝が蹴り飛ばした時、崩れた。
「……え?」
「……今回は、剣で戦いにきた訳じゃねえからな。その内やると思った……」
「え、でも、剣帝って」
「そう呼ばれてるけど、あいつおキレイな見かけと別にド外道だぜ? つーか、剣で戦ってるのも一番得意だとか、そもそも、相手を騙すためだし、うわ、あれ、暗器じゃねえか、えげつねえ」
「……」
ひどい、ひどい戦いだった。
ただただ剣と剣がぶつかりあう美しい戦いではない。
剣帝は平気で剣以外を使い息子を追い詰める。距離をとれば、剣帝に一撃を与えることができず、暗器がくる。
ならばっと距離をつめれば、わざと距離をとり、切るフリをして蹴りが、あるいは蹴るフリをして切る。
騙まし討ちかと思えば、それすらフェイント。
からかうように、弄ぶように鮮やかに責め続ける。
「くそおやじいいいいい!!」
「ルールもなにもない殺し合いに、なにをそんなに剣を使っているんだい、スクアーロ。私は相手を殺すときはなんでも使えと言ったよね?」
剣帝は足元の石を蹴り上げ、息子の顔を狙った。咄嗟の反射神経で避けた瞬間、そこには刃がある。
「スクアーロ、一つだけアドバイスだよ」
「んだあ!!」
「この暗器、毒が塗ってあるからね」
「このくそげどおおおおおおお!!」
遠くで見ていた医者は、タバコを踏み潰す。
「こえーな」
ぽつりっと、呟く。
「あれが、本当の剣帝の怖さ?」
「いいや」
目を伏せる。
頬に冷や汗が伝った。
「あれくらいじゃねえと、いつの間にかあいつでさえ互角に戦えなくなってやがる。ちっ随分とヴァリアーで鍛えたじゃねえか」
お義父さんは外道です。