ようやく、ゴングが響いた。
「ねえ、手伝わないの?」
真っ白な男は、タバコを吸い始めた医者に聞く。
医者はその声にめんどくさそうに首を横に動かした。立っているのすら億劫だという態度に、真っ白な男は笑う。
「じゃあ、貴方はなしをしにきたのかな?」
「見張り兼死体回収係」
「どっちの?」
「さあ?」
金属のぶつかり合う音。
白と銀が交差する。
どんな闇の中ですら鮮やかに存在するだろう二つは、対称的な動きで剣を振るっていた。
鮮やかで、いっそ優雅とも言うべき流れで押す白。どこか必死に、受け止めることしかできない銀。
医者はタバコを吸いながら、違うなっと心の中だけで呟いた。
どうにもこうにも、違うと。こんなものではないだろうと、こんなことではだめだろうと。
「どう思う?」
真っ白な男は率直に聞いた。
ゆえに、医者も率直に返す。
「お前、あいつになんかしたろ」
「なんで?」
「動きがわりぃし、なにより全然怖くない。あいつはあんなもんじゃねえよ。俺はあいつらの死闘を見たことはねえが、あいつらが人を殺すとこくらいは見たことある。
だけどよ。あいつらは怖い。怖いんだよ。本来、怖い生き物なんだ。
それなのに、今日のあいつらはこれっぽっちも怖くねえ」
「ふーん」
「このままじゃ、あいつ死ぬな。今はテュールのやつがあわせてやってるけど。あいつ飽きるのはえーし、殺せるときに殺しとくやつだから」
「それは、困るね」
真っ白な男は、防戦一方の銀を見た。その表情には、焦りや苦しみ、微かな恐怖と戸惑いが浮かんでいる。
「あの子は、まだ精神と経験が薄いからねー」
「ん、もう勝負に出るぞ」
医者の言葉と、ほとんど同時だった。
ゆるりと、動きが、流れが変わる。
白は、その表情を笑みにした。医者にとっては見慣れた笑みだ。だからこそ、「怖い」
「殺気だけで、殺されそう」
「だろ」
「でも、まだあの子に死んでもらったら困るんだ」
「じゃあ、どうする」
「呼ぶよ」
「誰を?」
「スペルビ・スクアーロを」
医者が聞き返すより早く、真っ白な男は叫んだ。
「スクアーロ!! 起きろ!!」
そっと、目の色が変わる。
いや、実際に変わったわけではない。ただ、どこまでも澄んだ瞳が、かち合った黒の双眸と同じ、どこまでも、どこまでも、どこまでも濁ったものに変わった。
怖いなっと、医者は思わず口に出す。
二つの恐怖と化した白と銀はぶつかり合う。
「やあ、スペルビ、久しぶり」
「よお、クソ親父」
第2ラウンド開始!!
壊れスク→狂いスクへバトンタッチ。
壊れスク=幼児退行 狂いスク=人形、みたいなイメージでやっております。
実はシャマルと白蘭もいました。