美しい白



「びゃっくん」

 そう言ってこの世に恐れることはないもない少年は男に飛びついた。嬉しそうにその白い服に顔を突っ込み、日の光の下きらきら散らばる銀色と一緒に顔をこすり付ける。
 対する男は、それを笑って受け入れ、横でひたすら焦ったような少女を手で制した。
 見渡せば、その少女にそっくりな少女たちもまた、同じように驚いて戸惑っている。笑顔なのは、少年と男だけだった。
 男は、見上げてくる少年の銀色の瞳を白い瞳で覗き込む。

「久しぶり、少し、大きくなった?」
「うん、しょーいちさまもねーさまも大きくなったって」
「そっか、名前は決めてもらった?」
「んーとねー、あんまり、なまえはきめないほうがいいって、ねー様たちにもないみたいだから、いいかなって」
「そりゃ、だめだよ。やっぱり名前があった方が呼びやすいし、僕も、貴方とか、君よりもびゃっくんって呼ばれた方が好きだしね。うん、正チャンに言っといてあげる」

 やったっと嬉しそうに少年は笑いもう一度顔を服にうずめた。
 遠くから見ていると、少年と男は白すぎてまるで親子か兄弟のようであったが、二人のまとう雰囲気ゆえかそれとも日の中、輝く銀とただ馴染むような白の違いか、不思議と二人に繋がりは感じられなかった。
 男は、そんな少年の頭を撫でながら、髪も伸びたねっと笑う。

「ねーさまといっしょなんだ」

 そう呟いた瞬間の、少女たちの顔はまさしく、花が開くようだった。少女たちの名の知らぬ、形容しがたい感情が、いつもの無表情を洗い流し、恐らく、彼女たちですら無自覚な表情を引きずり出す。
(あー、らら、これいいのかな?)
 っと男はそう思いながら、少年を抱き上げた。

「よし、じゃあ今から、正チャンところに一緒にいこうか」
「びゃっくん、しょーいちさまとおしごとじゃないの?」
「んー、そうだけど、サボる」
「さぼるの? しょーいちさま、怒るよ?」
「いいのいいの、お仕事よりも君の名前の方が大事だから」
「白蘭様!!」

 少女たちの悲鳴を無視し、男は少年を抱き上げて走り出す。
 白い瞳も白い髪も目の前で、少年は「きれいだね」っとつぶやいた。






「起きた?」

 彼が目を開けると、白い髪が見えた。人工的な光の下で、それは寒々しいまでに白い。
 その白と、耳に残る声があまりにも同じだったもので。

「きれいだね」

 彼は、少しだけ勘違いした。
(ああ、それ、小さい頃の君にも言ってもらったよ)





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