初めまして



 彼を一言で表すなら、白だろう。
 まごうことなき白。目も髪もそして服にいたるまで白く、目元の刺青を除けば雪に埋もれてしまいそうな彼を白と言って反論しないものはいないだろう。
 そんな白い彼は、その横の、同じように白髪ではあるが褐色の肌と表情を隠した少女に連れられ、部屋に入った。
 部屋の奥にはメガネ以外の特徴がない、そんな特徴がないことこそ特徴のような青年は一瞬嫌そうな顔をしたものの、笑顔で迎え入れた。

「正チャン、久しぶり」

 語尾に音符でもつきそうなほどご機嫌の彼は手近な椅子に座った。

「お久しぶりです、白蘭様」
「呼び捨ててでいいのに、というよりも信頼をこめたニックネームでもいいよ?」
「謹んでお断りします」

 彼の後ろについてきた少女にお茶をっと告げ、青年は聞く。」

「この大事なときに、なんの御用でしたか?」
「んー、色々あるけど、まず聞いていい?」
「なにを?」
「さっき、外に男の子いたね、正チャンの子?」
「…………ああ、オメガのことですね」
「おめが?」
「例の計画の重要な鍵です。便宜上、オメガシリーズと呼んでますが、あの人物のクローン……とは、少し違うんですが、チェルベッロと同じものと考えていただいてかまいません。どうにもチェルベッロたちの元になった人とは違い、あの人物の遺伝子は弱すぎてこれ以上の量産は無理だと判断されました。あの子が唯一最後で最高の成功作です」
「最後だから、オメガね。でも、なんで男の子なの?」
「初期は確かに、計画と技術の安定を考えXX型の予定でしたが、これがまた……詳しい話は理解できないでしょうからかいつまんで話すと、相性が悪かったんですよ。とにかく手を変え品を変え試してみたら、あの子だけ成功したんです。ほとんど、偶然と奇跡の子ですよ」
「ふーん」

 あまりよくわかっていない顔で相槌を打つ彼の耳に、甲高い笑い声が響く。
 何度か、ここにはきたことがあるが、そんな声を聞いたのは初めてだった。

「楽しそうだね」
「ええ、あの子が生まれてからしばらく、笑い声が絶えません」
「うん、チェルベッロの子たちの笑顔、初めて見た。笑えるようできてたんだね」
「一応は、皆人間と変わりません。ただ、多少乏しいだけです。
 少々、あの子の感情値を高くしたせいか引きずられているんでしょう」
「正チャン、その考え方ちょっとおもしろくないよ……それにしても、オメガくん、かわいかったね。アレは、白じゃなくて、銀だったけど好きな色だよ」
「キレイですよね。指定したわけじゃないのに、ああなったんです」

 ふっと、一瞬青年の顔がゆるんだのを彼は見逃さなかった。
 いつもならばカーテンがかかっているはずの窓を通し、青年はいとおしむようになにかを見た。
 実際、窓の外には木々や空だけで、何かを見ることはできないが。

「ちょっと話したけど、いい子だったよ」
「……話したんですか……?」
「うん、素直だったよー、僕のこと、びゃっくんだって」

 ガダンゴドバサバサ。
 青年が椅子から勢いよく落ち、ついでとでもいうように書類が机から落下する。

「なっなにを教えたんですか……」
「正チャンが呼んでくれないから、ちょっと「僕、びゃっくん」って言ったら「よろしくー、びゃっくんー」って、かわいいね」
「誰か!! 誰でもいい!! 今すぐオメガの脳を洗浄しろ!! 今日一日あったことを消すんだ!! 現在の段階で邪悪なことを脳に刷り込むなんて許されない!!」
「うわ、正チャン、それちょっとひどい……」





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