母親強奪失敗



※・なんとなくオマケのオマケ。
 ・ランチアさんは色々あってツナと一緒にいます。
 ・なんとなくツナ→スクっぽいです。
 ・ツナは骸が嫌いです。




















「俺は、だめだあ」
「なぜです?」
「もう、そこは俺の帰る場所じゃねえ」
「じゃあ、あの人達は、貴方の帰る場所なんですか?」
「ちげえよ、ただなあ。
 あいつらはまだガキなんだよ、お前と同い年の。それなのに、あいつらにはいねえんだよ」

 迎えにきた。
 そう言った沢田綱吉に男は苦笑する。
 いないのだと繰り返した。
 さびしげな目だった。
 記憶を、遠くを見る瞳だった。

「前はいたみてえだが、今はいねえんだよ」

 沢田綱吉は知っていた。
 なぜなら、今その人を奪ったのは沢田綱吉だから。
 しょうがなかった。
 あんなにいい人を、優しい人を再びあの男に渡したくなかったのだ。
 例え、その本人が望んだことでも、沢田綱吉は嫌だった。
 だから、見つからない、行方不明と理由をつけてその人を縛っている。

「だから、俺がいてやらねえとだめだ」

 俺も、あの人がいなけりゃだめだったから。
 男は、過去の自分を彼らと照らし合わせているのだろうと沢田綱吉は超直感で思う。

「でも」

 沢田綱吉は見かけによらず強欲だった。
 強欲でなければマフィアのボスという道など選ばなかっただろう。
 そう、沢田綱吉の強欲さといえば、誰にも死んでほしくない。誰にもいなくなってほしくない。そんな、ありふれて優しくて甘くてどうしようもないものだった。
 それと同時に、自分の気にいった相手には傍にいてほしいという強欲さと、特定の彼にだけは誰かを奪われたくないという思いがあった。
 沢田綱吉は、その思いを、きっと特定の彼が嫌いだからだろうと判断している。
 それは間違いない。
 だから、決して引き下がらない。

「こっちにも、貴方を待ってる人がいるんです」

 揺らぎが、見えた。
 たぶん、心当たりがあったのだろう。
 沢田綱吉の言葉には嘘はない。
 待っている人は本当にいるのだ。

「帰れねえ」

 それでも、断られる。

「あいつら、インスタントくわねえんだぜ」

 苦笑。

「前は食ってたくせに、もう食わねえって。それに、掃除も洗濯もしねえからほとんど使い捨てなんだぜ、信じられねえだろ」

 それに、俺が夜おやすみのキスしてやらねえと寝ないんだ。
 おかしいだろと繰り返す。
 沢田綱吉は悔しかった。
 悔しかったが諦めるしかなかった。
 こんな相手を連れ帰っても、きっとあちらへ行ってしまう。
 そう、そもそも男は沢田綱吉の嫌いな特定の彼に支配されている。
 その支配を解除する方法はあった。
 しかし、解除には強固な意志がなければ不可能らしい。
 これほど揺れている男では、解除は不可能だろう。
 微かに、そう、微かにでも沢田綱吉の嫌いな特定の彼が呼べばあちらに言ってしまう。
 それは、ひどく悔しい。

「じゃあなあ」

 男は沢田綱吉にそう言った。
 その背中を沢田綱吉は見送る。
 沢田綱吉は強欲だった。
 その背中がほしくてほしくてしかたなかった。





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