「武、少し待ってて」
ディーノさんとのボス同士の会議だからと護衛である俺すら遠ざけたツナの背中を見ながら俺はぶらぶらと歩き始めた。
このキャバッローネの屋敷にきたのは、初めてではない。
最初にきたのは10年以上前で、獄寺に譲ってもらった旅行にきたとき。
実はあれはなんか旅行じゃなかったとか言っていたがよくわからない。
それから、かなり時間が空いたが今でもツナとディーノさんが仲がいいことから俺もよくくる。
最近は忙しさにあまり頻繁にこれなかったが、建物も風景も変わっていない。
美しく手入れされた中庭を見つめながら、俺はふと、静かな筈の屋敷に騒がしさを感じた。
人が暴れる音。
銃や刀剣の類は使われてないだろう。
ただ、何かを壊す音や吼えるような声が聞こえた。
どこかのファミリーが攻めてきたということはないだろうが、何かケンカでも起こったのだろうか?
俺が首を傾げてそちらを見ていれば、騒がしさはこちらへ走ってくる。
「誰か止めろ!!」
「あっちだ」
「銃を使うな!! 気づかれる」
「くそっ!」
「またドアを壊された!!」
「行かすな!!」
いまいち状況が判断できないが、声だけ聞いていると、誰かを追いかけているらしい。
それにしても、銃なんて物騒だな。
そう思いつつ、腰の竹刀に手を伸ばす。
殺意を感じないことから、たぶんこの屋敷の身内なのだろう。
しかし、音からして相手は強暴そうだった。
今も、破壊の音は続いている。
もしかしたら、ツナに危害を加えるかもしれない。
こちらへやってくる。
まあ、ツナは俺よりも強いから平気だろうが、一応、護衛という立場だ。
それに、この屋敷の人には恩があるし、もしも手間取っているならば手伝ってもいい。
あの足音なら、後……
「アルジェンテオ!!」
銀色の、光。
知っている。
あの、輝きを、あの、眼差しを。
こちらへ向かってくる、あの姿を。
「あっ」
交差する。
びりびりと、痺れた。
ぞくぞくと、背中に走る。
鼓動が、跳ねた。
どうしようもなく、血流が暴れる。
それでも、呼吸は落ち着いている。
頭は、真っ白になるほど冷静だった。
見つけたっと、何かが叫んだ。
そのまま、竹刀を抜く。
詰められる距離。
あっちが、一瞬身構えた。
しかし、それも一瞬で不思議な顔をする。
困惑した表情。
相手が口を開く。
「てめえ、だれだ……」
全てが、スローモーションで見える気がした。
踏み込む。
ただ、それだけで届く。
構えはとらない。
不思議と無防備な相手の腹に、そのまま一撃を加える。
それだけでいい。
息が漏れる音。
追いついた黒服達。
倒れる体を支えた。
そのまま、担いで。
何か黒服達が口を開く。
皆、顔をしかめている。
俺は、笑った。
笑ったまま。
思わずトンズラ。
「ハヤトー! どうしよう、俺、誘拐犯になっちまったよ!!
え? 何怒ってるんだ? もしかしてヒバリといちゃついてるとこだった? だったら悪いけどさ、こっちも大変なんだって!!
ツナおいてきちまったし……う! 怒鳴るなよ!! 俺も悪いって思ってるから!!
そりゃ、俺は考えなしだったけど……だって俺、その時何も考えられなくてつい……。
うわー、俺怒られる? 怒られるじゃすまないかもなー………。
なーなー、ハヤトー、どうしよう!!
って……切るなよ……」
横に寝ている銀色。
髪も短いし、あの頃と服も違う。
それでも、わかる。
ああ、あの頃を、一番傷つけた相手。
初めて俺の手から零れて落ちていったもの。
忘れられない、忘れてはいけなかった。
もう一度、会いたいと。
そして、もう一度剣を交えたいと、思っていた。
「……ま、いっか」
その銀髪に口付けた。
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