仮定2



 スクアーロが目を覚ますと、そこは見知らぬ建物の布団の上だった。
 混濁する記憶を必死で辿り、自分がなぜここにいるのか思い出す。
 そうだ、自分は死んだ筈だと。
 無様にも子供に負け、情けまでかけられた。
 惨めな気分だった。
 だからこそ、死を選んだというのに。
 体中のあちこちが痛む。
 見れば、自分の服はほとんど脱がされ、包帯だらけだった。
 それを見れば、ここが死後の世界ではないことはわかる。
 ならば、どこなのだろう。
 自分の行く場所は、もう死しか残って無い筈だ。
 それなのに、スクアーロは生きている。
 生きて、呼吸をして、痛みを感じている。
 どういうことなのだろうか。
 考えながらも、必死の思いで体を起こし、辺りを見回した。
 純和風の家具の中、かすかに何か酸っぱいような生臭いような匂い。
 スクアーロはその匂いが気に入らず顔をしかめた。
 そうだ、この匂いはいつか連れ込まれた寿司屋の匂いだ。
 ベルとルッスーリアのやつは妙に気に入っていたがスクアーロは気に入らない。
 いらいらと今度は少し力をいれて立ち上がる。
 たぶん、あばらの骨がだいぶ折られているだろう。
 自分に勝った子供の顔を思い出すとイライラした。
 目の前のフスマに手をかける。すると、偶然なのか、動く気配を感じたのか、妙に見たことのあるような男の顔があった。
 男は、じっとスクアーロの全身を見やると、くるりと背後を振り向いて「おい、たけしー」と呼びかける。
 すると、よたよたっと包帯とガーゼだらけのあの子供がにこーっと笑ってこっちにやってくる。
 見た目だけならばスクアーロよりひどい子供はそれでも笑っている。

「てめえ……!!」

 スクアーロは、山ほど吐き出したい言葉を飲み込んだ、それだけ怒鳴った。
 怒鳴ったせいであばらどころか全員が痛むがかまわない。
 怒鳴られてもにこにこ笑う子供に、スクーアロの怒りは頂点に達する。

「あんたさ、捨てられたんだよ、仲間にさ」

 ぐさりっと、突き刺さるような言葉だった。
 敗者は切り捨てられる、それは当たり前。
 だが、敗北したことと、今スクアーロが思い浮かべる男に捨てられたという事実はひどく痛い。
 スクアーロが苦渋を顔に浮かべても、子供はにこにこ笑っている。

「だから、俺が拾った」

 鮫の腹かっさばいて助けたんだぜ?
 恩着せがましいとも取れる態度と言葉。
 それでも、スクアーロはうまくいえない。
 なぜなら、子供は勝者でスクアーロは敗者なのだ。

「あんたは、俺のものな」

 横で、子供の親だろう男が、なんだか懐かしそうな、困ったような、そんな複雑な表情を浮かべていた。
 親なら止めろよとスクアーロは思うが、口には出さない。



















「で、鮫ってさ、食えるんだよな? かっさばいたついでに持って帰ってきたけど、食う?」
「ぜってぇくわねえ!!」





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