スクアーロが目を覚ますと、そこは見知らぬ建物の布団の上だった。
混濁する記憶を必死で辿り、自分がなぜここにいるのか思い出す。
そうだ、自分は死んだ筈だと。
無様にも子供に負け、情けまでかけられた。
惨めな気分だった。
だからこそ、死を選んだというのに。
体中のあちこちが痛む。
見れば、自分の服はほとんど脱がされ、包帯だらけだった。
それを見れば、ここが死後の世界ではないことはわかる。
ならば、どこなのだろう。
自分の行く場所は、もう死しか残って無い筈だ。
それなのに、スクアーロは生きている。
生きて、呼吸をして、痛みを感じている。
どういうことなのだろうか。
考えながらも、必死の思いで体を起こし、辺りを見回した。
純和風の家具の中、かすかに何か酸っぱいような生臭いような匂い。
スクアーロはその匂いが気に入らず顔をしかめた。
そうだ、この匂いはいつか連れ込まれた寿司屋の匂いだ。
ベルとルッスーリアのやつは妙に気に入っていたがスクアーロは気に入らない。
いらいらと今度は少し力をいれて立ち上がる。
たぶん、あばらの骨がだいぶ折られているだろう。
自分に勝った子供の顔を思い出すとイライラした。
目の前のフスマに手をかける。すると、偶然なのか、動く気配を感じたのか、妙に見たことのあるような男の顔があった。
男は、じっとスクアーロの全身を見やると、くるりと背後を振り向いて「おい、たけしー」と呼びかける。
すると、よたよたっと包帯とガーゼだらけのあの子供がにこーっと笑ってこっちにやってくる。
見た目だけならばスクアーロよりひどい子供はそれでも笑っている。
「てめえ……!!」
スクアーロは、山ほど吐き出したい言葉を飲み込んだ、それだけ怒鳴った。
怒鳴ったせいであばらどころか全員が痛むがかまわない。
怒鳴られてもにこにこ笑う子供に、スクーアロの怒りは頂点に達する。
「あんたさ、捨てられたんだよ、仲間にさ」
ぐさりっと、突き刺さるような言葉だった。
敗者は切り捨てられる、それは当たり前。
だが、敗北したことと、今スクアーロが思い浮かべる男に捨てられたという事実はひどく痛い。
スクアーロが苦渋を顔に浮かべても、子供はにこにこ笑っている。
「だから、俺が拾った」
鮫の腹かっさばいて助けたんだぜ?
恩着せがましいとも取れる態度と言葉。
それでも、スクアーロはうまくいえない。
なぜなら、子供は勝者でスクアーロは敗者なのだ。
「あんたは、俺のものな」
横で、子供の親だろう男が、なんだか懐かしそうな、困ったような、そんな複雑な表情を浮かべていた。
親なら止めろよとスクアーロは思うが、口には出さない。
「で、鮫ってさ、食えるんだよな? かっさばいたついでに持って帰ってきたけど、食う?」
「ぜってぇくわねえ!!」
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