仮定12



※オリジナルの妄想テュールが出てきます。
・テュールはスクアーロの死闘の末、引退したという設定です。
・年齢は家光と同じ位かそこそこ上。
・義手は使用しておりません。
・スクアーロの戸籍上の義父で師匠に近いです。
・9代目の守護者でした(過去形)
・白髪+ヒゲ+長身です。
・俺と私を使い分けます。
・時雨蒼燕流アレルギー。
 OKという心の広い方のみどうぞ










「楽しいか、スクアーロ、楽しいか」
「試合でなく殺し合いが楽しいか」
「そうだ、そうだ笑えスクアーロ。笑って俺を超えてみろ」
「お前の覚悟を見せてみろ」
「俺を打ち倒せ、打ち倒してみろ」
「今、俺は楽しいぞ。お前とこうして命をかけた剣を交えるのは楽しいぞ」
「笑え、もっと笑えスクアーロ、もっと傲慢なまでに、笑え。俺たちはそうでなくてはならない」
「さあ、スクアーロ、お前に決定的な敗北を与えてやろう。
 あるいは、敗北を与えられてやろう」
「さあ、こい」
















「我が、かわいい息子よ」
















 目を開けると、そこには巨大な鮫が真っ二つにされていた。
 その切り口を見て、男はぼんやりとする。
 夢、だろう。
 これは、さっきまで見ていた夢の続きなのだろう。
 そう、判断する。
 体のあちこちがリアルに痛いし、体が妙に冷たいが夢に違いない。
 まさか、いるはずがない。
 男はそう思う。
 段々下がってくる瞼に身を任せようとした瞬間、それは現れた。

「おきたか?」

 さらりと、白い髪が揺れる。
 視界の中、ソレは自分の薄いヒゲを撫でながら聞いた。
 男は、閉じかけた瞼を思いっきり持ち上げる。
 幻覚でもなく、夢でもなく、ソレはそこにいた。
 闇の中浮き彫りになるような白い服に白い髪。
 黒い目だけがそこから異様に浮いている。
 年齢は判断しにくいが、中年の域だろう。

「テュール……」

 頭で思っただけのつもりが、口をついた。
 それに、ニヤリとテュールは笑う。

「師匠はもうやめたのか?」
「う゛お゛ぉい!! それはもう十年以上前にやめただろうがあ!!」
「ん、そうだったか? 最近年で忘れやすくて……」
「年ぃ!? てめえいったいいくつのつもりだあ!! 鮫真っ二つにしやがる年寄りがいるかあ!!」
「ん? 鮫? おお、真っ二つだ、誰がやったんだろうな」
「てめえ以外いるかこの化け物じじい!!」

 叫んだ衝撃で激痛が走る。
 しかし、顔を引きつらせながら男は悲鳴も、痛いという表情も出さなかった。
 それに気づいたテュールは更にからかうように右手を差し出す。

「起こしてやろうか?」
「いらねえ!!」

 手を無理矢理はねのけようとすれば、すかっと空を切る。
 不思議そうに見た男の左腕には先がなかった。
 いつもならば、そこには義手があるべきだったが存在しない。
 その妙な空白感が気持ち悪かったのだろう、更に顔をしかめた。

「お揃いだな」

 ぶらりっと目の前に先のない袖を見せ付ける。
 ただし、男よりもテュールの左腕は短かった。

「うるせえ!!」

 っと、今度は右手できっちりと払う。
 少し、テュールが寂しそうな顔をするが、すぐに笑った。

「お前も変わってないな」
「……何しにきたんだよ」
「わからないのか?」
「わかんねーよ、引退したじじいが何しにきたかなんて」
「かわいい息子が日本で勝負するというから見にきたんだ」
「息子っつっても、血も繋がってねーだろ」

 それでも、息子だ息子、そう言いながら、テュールは払われた右手で男の額を撫でる。
 体が痛いのか、抵抗しない男に、テュールは気をよくして更に撫でる。
 それが子供を褒める仕草に似ていた。

「日本、と聞いて嫌な予感がしたんだが、シグレソーエンリュウか」

 鳥肌がたったっとテュールは言う。

「……あのガキの技にかよ」
「ああ、怖かった」
「怖い……?」
「お前と違って私は何回も負けたことがあってね。怖い目にもたくさんあったさ。特にシグレソーエンリュウは怖い」

 テュールの瞳は真剣だった。
 冗談もからかいの色もなく、微かな震えを伴っている。

「私も、何度も負けたものだが、あそこまで決定的に、圧倒的に、運命的に負けたのは初めてだった。
 剣の申し子と呼ばれ持て囃され、傲慢になっていた俺を打ち砕いた。
 今でも、あの男の剣筋を思い出すと震えがとまらない……」

 語気が強くなる。
 テュールの顔は元々の白さを通り越し、蒼白となっていた。
 過去を思い出すのだろう、目を伏せ首を左右に振る。

「まあ、そのおかげで私はボンゴレファミリーに入り、なんだかんだでリングも貰ったし、お前にも会えた訳だがな」
「……あんたがやったは時雨蒼燕流は……どっちだ?」
「どっち……と聞かれてもわからんよ。ただ、言えるのは、俺がやった相手は友をなによりも大事にする男だった、それだけだ」

 男は舌打ち。

「またしても、シグレソーエンリュウにしてやられたか」

 テュールは苦笑する。
 それを見ながら、男はけっとはき捨てた。

「次は勝ってやらあ」
「敵討ちをしてくれるのかい?」
「なわけねーだろ!! 俺が負けたまんまで終わるかよ!!」

 そうだなっとテュールは心の底から笑う。
 まるで、父のような表情。
 そして、そのまま嬉しそうに男の意思を無視して右手でしっかりとその腕を掴むと引き上げた。
 それほど力が入っているようには見えないが、男は少しだけ宙に浮き、テュールに抱きしめられた。
 片腕の不器用な抱擁。

「それでこそ、私の息子だ」

 そのまま、担ぎ上げる姿勢に移行し、テュールは歩き出した。

「う゛お゛ぉい!! おろせえ!!」
「暴れると傷に響くぞー、アバラが折れてるからなー」
「じゃあ暴れさせんな!!」
「怪我が治ったらたっぷり鍛えてやるぞ、そう、今度はシグレソーエンリュウを余裕で血まみれにしてぶっ殺せるくらいになー!」

 鼻歌でも歌いそうな程嬉しそうなテュールに、スクアーロは小さく小さく呟いた。

















「受けてたつぜえ、親父」
「ああ、スペルビ」


















「しかし」
「……」
「どうせならパパの方が……」





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