仮定10



 監視のつもりだった。
 いくらツナについたと本人が言ったところで、相手はヴァリアーのボス候補だった男。
 いつそのしまった牙をむきツナを傷つけるかわからない。
 山本は勝ったには勝ったが、本当にこいつが殺そうと思えば今のツナでは倒すことは無理だろう。
 ツナは甘い。
 山本と同じように殺さないように倒そうとするだろう。だが、それは勝負の世界で通用しても、殺し合いの世界では通用しない。
 そして、今男はヴァリアーでもなければボンゴレでもなくなった。
 それならば、俺が手をだすこともできる。
 いざというときは、そう、自分の手で。
 俺はその佇む銀色の髪を見ながら考える。

「何みてんだあ」

 くるりと、銀の髪を揺らして振り返る。
 その瞳にはぎらぎらとした色があるが、妙に弱い。
 まるで、殺気も敵意もなく。
 ただ、どこか寂しげに佇んでいる。

「別に、ヴァリアーに戻ったり、あいつらを殺そうなんて思ってねえよ」

 覇気がない。
 まるで、折れてしまった剣のようだった。
 まだ鋭さと輝きを残したまま、折れてしまった剣。
 人を傷つけることもできるだろう。
 しかし、それを振るおうとは思わない。
 そんな、雰囲気だった。

「負けて、命まで救われて、これ以上俺に恥をさらせる訳がねえ」 

 青空の下笑う。
 そういえば、俺はこの男を夜にしか見たことなかった。
 初めて見たときもまるで、夜を引き付けたかのように闇でもなお鮮やかな髪を揺らし、こちらを見下ろしていた。
 その時は瞳ももっと野心に輝き、全身から余裕や自信のようなものを撒き散らしていたが、今は違う。
 静かだった。
 あまりにも、静かだった。 
 
「お前も、アルコバレーノなんだよな」

 笑う。
 力ない笑み。
 その似合わない笑みのまま、空を見上げる。

「今日は霧の対戦だなあ」

 どういう意味かはわからなかった。
 ただ、何かが引っかかるような。
 そんな言葉だった。

「お前のとこの霧のリングの所在は掴めてんのか?」
「お前には関係ないことだろ」
「そりゃそうだ」

 空。
 大空。
 見上げたまま、動かない。
 まるで、抜け殻。
 たった一度の敗北で、ここまで弱るとは思ってもみなかった。

「あっ帰るのか?」
「シェスタの時間だ」

 そうかっとすたすたそいつは近づいてきた。
 何をするかと思えばいきなり俺を抱き上げる。
 敵意や殺意を感じなかったからほうっておけば、いきなりぐいっと帽子を持ち上げた。

「buona notto」

 額に降ったのは唇の感触。
 それも一瞬のことで、すとんっと俺を下ろした。
 じっと見過ぎたせいだろうか、そいつは変な顔をする。

「なあに見てんだあ?」

 さっきの行為に何も思ってないのだろう。
 行かないのかっと聞いてくる。
 挨拶でキスされたことは何度かあったが、寝る前のキスなど初めてだ。
 俺がそれでも見ていると、不思議そうな顔をした。
 演技でもなんでもなく、ただ、なぜ見ているのだろうと、不思議そうに。
 青空の下。
 闇の中とは違う輝きで銀の髪がなびく。

「なあ」
「んだよ、ヴァリアーの情報なら流さねえぞ」
「そうじゃない」
「なんだよ」



















「俺の5人目の愛人にならねえか?」

























「あっリボーン! 何してたんだよ!!」
「ちょっと口説き逃した」
「へ?」
「フラれたのは初めてだ」
「いや、訳わからないこと言ってないで、霧の守護者って誰なんだよー!」


※buona notto=「おやすみなさい」


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